研究課題
本研究の目的は、形態学と化学的分析を統合して、水田稲作起源地における人類集団の移動・拡散の実態をミクロの視点(個体単位)で解明することにある。中国江蘇省蒋庄遺跡のおよそ240基の墓から出土した良渚文化期(新石器時代中期)の人骨を主要な対象としている。2019年度については、9月に南京博物院江南工作所にて、連携研究者と蒋庄遺跡人骨の調査を行った。歯冠計測、口腔疾患の観察および歯石採取(岡崎)、四肢骨計測(高椋)などの作業を行った。本人骨資料は、昨年度から継続して研究してきたが、今回の調査によって、形態データの抽出と同位体分析用の資料採取を完了することができた。放射性炭素年代測定と安定同位体分析については、連携研究者ら(米田、覚張、板橋)によって既に測定済みである。人骨の年代は、6個体から採取した資料がBCE3,100~2,200年の範囲に収まり、考古学的年代と矛盾しなかった。炭素安定同位体比による食性分析では、全員がC3植物の食者と推定され、C4植物の食者は検出されなかった。ストロンチウム安定同位体比による出自推定では、50体以上の分析結果が示されているものの、同遺跡から出土した動物骨(イノシシ、ウシ)の分析結果と対比しても移入者は検出されなかった。形態解析については、歯冠計測値を基にしたペンローズの形態距離を算出した結果、蒋庄集団は、地理的に比較的近い広富林集団や馬家浜集団に類似しなかった。新石器時代中期の長江デルタ地域では、歯冠形態の集団変異が大きい傾向がみられた。また、蒋庄集団の歯冠サイズはかなり小さかった。口腔環境については、観察データの集計途中ではあるが、中国の他の新石器時代集団と同様に疾患頻度はかなり低かった(齲歯率4.4%)。採取した歯石については、連携研究者(渋谷)が検鏡した結果、加熱によって損傷したと思われるデンプン粒が大量に確認された。
2: おおむね順調に進展している
主要な研究対象としている蒋庄遺跡について、整理済み人骨資料は予定よりも早くにデータ収集と分析資料の採取を完了することができた。ただし、2020年3月に予定してた周辺遺跡における人骨資料の調査については、新型コロナウィルスの蔓延による渡航自粛要請によって、遂行することはできなかった。
当初の研究計画では、蒋庄遺跡の整理済みの人骨資料の調査が完了した後、遺跡現地にて未整理の人骨資料を調査する予定であった。しかしながら、新型コロナウィルスの蔓延による渡航自粛要請によって、当面は海外にて活動できないことが想定されるため、これまで収集したデータの整理、分析に集中し、論文執筆を行う予定である。国内移動の自粛が解除された後、国内の研究機関が管理する人骨資料から比較データを収集したい。
新型コロナウィルスの蔓延による渡航自粛要請によって、2020年3月に連携研究者らと予定していた海外調査を中止したため、次年度使用額が生じた。今年度、渡航自粛要請が解除されないようであれば、比較データを収集するために国内調査を集中的に行う予定である。また、研究成果を発信するためのツールとして、復顔を依頼し、その製作費用に充てたい。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
河姆渡と良渚 中国 稲作文明の起源
巻: - ページ: -
International Journal of Paleopathology
巻: 24 ページ: 236-244
https://doi.org/10.1016/j.ijpp.2019.01.002
馬家浜
https://www.med.tottori-u.ac.jp/news/25402.html