研究課題
本年度の当初計画では、小脳神経回路のアデノシンの放出濃度を測定する研究を中心に進めることになっていた。しかし、分担研究者(上窪)らが、次年度に開始する予定だったensemble FRET, single-molecule FRET測定に必要な遺伝子材料の作出を予定より早期に成功させた。そこで2018年度は、FRET測定とアデノシン測定の技術を確立させることを優先した。まず、上窪らが作出したSNAP/CLIP-tagged mGluR1をHEK293細胞に発現させ、SNAPとCLIPモチーフにより細胞ガイドメインを蛍光標識したmGluR1をレーザー共焦点顕微鏡で検出することに成功した。グルタミン酸を受容したmGluR1はサブユニット2量体の細胞外ドメインの相対的な変異が変化するが、この現象を蛍光標識間のFRET効率低下として検出することに成功した。問題点として、SNAP/CLIP-tagged mGluR1のサブユニットの邂逅確率をコントロールすることが難しいことも分かり、現在、標識方法を改良して、この問題の解決を図っている。またFRET測定信号に特有なノイズを除去するために不可欠なデジタルフィルターをCUDA言語により並列処理MPU用に実装することにも成功した。一方、アデノシンはグラスピペット中に直径5ミクロンの炭素ファイバーを封入して、極小プローブ部を有する電気化学センサーの制作に成功した。このセンサーに3電極ポテンシオスタットを接続し、-0.4~+1.45 Vの循環電位刺激を加え、生理的濃度のアデノシンの酸化反応を検出することに成功した。このように全研究期間にわたって用いる画期的な実験技術を確立することができ、その成果の一部も学会発表を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究概要にのべたように分担研究者による遺伝子材料の作出が想定していたのより早期に成功したため、2018年度は当初から予定されていたアデノシン濃度濃度測定の実験技術の開発に加えて、次年度に着手予定であった上記の遺伝子材料を利用したFRET測定の技術開発に注力した。その結果、それぞれの実験技術がほぼ完成し、当初全期間にわたって計画していたものより効率的に実験技術の開発ができた。このことによって全期間にわたる研究全体の遂行が、当初計画より効率良く進むと期待される。
本研究の期間全体にわたって用いていくことになるアデノシン濃度測定およびFRET測定の実験技術がほぼ完成した。これは、当初計画では2019年度以降に着手する予定だったFRET測定に必要な遺伝子材料の作出が早期化したためである。そこで、第二年度からはこれらの技術を用いて、実際の生体標本からデータを取得するフェーズを展開する。まず、アデノシン濃度測定およびFRET測定の基礎的な実験を実施し、研究全体の進行のピッチが高い方のプロジェクトを選定し、大学院生等を集中的にそのプロジェクトに取り組ませることで、研究全体の実施を促進していきたい。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Synapse
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http://www3.u-toyama.ac.jp/biophys/