研究課題/領域番号 |
18K06462
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
川口 将史 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 助教 (30513056)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 交配前隔離 / 脳 / c-fos / 視索前域 / 線条体 |
研究実績の概要 |
ハゼ目ヨシノボリの終脳アトラスを作成した。ヨシノボリの終脳背側野外側部には、HuC/HuD陽性の神経細胞からなる壁によって、脳室に対し垂直方向に仕切られた区画が見出された。これらの区画はSubstanceP陽性線維の入力パターンやvGluT2陽性細胞の分布パターンがそれぞれ異なっていた。また、終脳腹側野背側部と連続した細胞集団が終脳背側野に食い込む形で大きな球状構造を形成していた。この細胞集団はGAD65, protachykinin, proenkephalin陽性であり、哺乳類の線条体と類似の細胞組成を示した。さらに、終脳背側野背側部にvGluT2陽性の小細胞が多く混在しており、この小細胞集団は吻側へ分布を広げて線条体様構造の腹外側まで続いていた。以上のように、細胞構築と様々な神経マーカーの分布解析を併用し、多様な魚種の終脳との相同性を分子・細胞構築の両面から追求することで、ヨシノボリの詳細な終脳アトラスを作成することに成功した。以上の成果について、J. Comp. Neurol.に掲載された。 終脳以外の脳領域についても脳アトラスの作成が進んだため、ヨシノボリ雄が同種雌に求愛している時と別種雌を威嚇している時、それぞれの場合に雄の脳でc-fos陽性細胞が確認された脳領域を同定した。その結果、求愛時には視索前域吻側部の腹側領域と視索前域大細胞部、外側陥凹核の腹外側部、中心灰白質で有意にc-fos陽性細胞が多く確認された。一方、威嚇時には視索前域吻側部の背側領域に、求愛時より多くのc-fos陽性細胞が確認された。別の水槽に入れた雌を提示しても、ヨシノボリ雄は同種には求愛様行動、別種には威嚇様行動を示すが、雄の脳内のc-fos陽性細胞の分布も、それぞれ求愛と威嚇に類似していた。このように、c-fos陽性細胞の分布は、雄個体が示した行動の検証にも利用できることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
終脳アトラスに続き、ヨシノボリの間脳アトラスも作成したため、現在、論文執筆を進めている。また、ヨシノボリ雄の求愛あるいは威嚇行動に伴ってc-fos陽性細胞が顕れる脳領域が特定でき、この分布パターンは雄個体が示した行動の検証にも利用できることがわかった。この結果に関しても、データ収集を進めて論文化を目指している。以上の点は、非常に順調に進んでいる点である。一方、c-fos陽性細胞がどのような神経回路の素子であるかを明らかにするために、脳内因子との二重in situハイブリダイゼーションを行う必要があるが、蛍光発色の感度がまだ低く、実験の技術をより高めていく必要がある。また、c-fosの発現と関連する脳内因子が同定できた場合、脳内因子の阻害剤を脳室内投与して行動を観察していく予定だが、薬理学的な解析のためのプラットフォームの確立が遅れている。これらの点は今後の課題である。以上のことから、おおむね順調に進展している、とした。
|
今後の研究の推進方策 |
終脳アトラスを作成する過程で、ハゼ目魚類の線条体様構造は非常に特殊化した領域であることがわかってきた。そこで現在、基礎生物学研究所の重信教授との共同研究により、この脳領域をレーザーマイクロダイセクションにて切り出し、次世代シークエンサーを用いてトランスクリプトーム解析を行う計画を立てている。この解析により候補に挙がった脳内因子について、c-fosとの二重in situハイブリダイゼーションを行い、c-fosの発現と関連する脳内因子を探索する。また、薬理学的な解析を目的として、ヨシノボリの頭蓋骨に窓を設けて針を刺入し、薬剤を注入するシステムの確立を目指す。以上のように、人為的な作用によってヨシノボリの求愛行動や威嚇行動を改変することが可能かどうか、検証を進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
薬理学的な解析のためのプラットフォーム構築を2018年度から始める予定だったが、これが遅れたため、次年度使用額が生じた。名古屋大の山本教授に薬理学的な解析の手法を見学させていただき、必要な機材について確認が取れたので、2019年度にこの準備を進めていく予定である。
|