研究実績の概要 |
ハゼ目ヨシノボリの間脳アトラスの作成を進めた。これまで行われてきた魚類の間脳の解析では細胞構築の顕微観察のみで統一性のない同定がなされており、魚種間での比較が困難になっている。そこで本研究では、細胞構築だけでなく各種遺伝子の発現分布についても解析を行い、間脳の構造を同定した。 腹側視床マーカーである転写因子Pax6, Dlx2, Six3の分布パターンをヨシノボリ成体脳で観察した結果、ゼブラフィッシュなどで後結節脳室周囲部 (PPT) の吻側域と考えられてきた領域が、腹側視床の尾側域 (VMc) にあたることが判明した。また、転写因子のPax7, Nkx2.4、およびチロシン水酸化酵素TH1, TH2をマーカーとして、PPT領域の同定を試みた結果、VMcの尾側にPax7, vGluT2陽性のPPT吻側域 (PPT-r) を発見した。PPT-rの尾側には、TH1, vGluT2陽性のPPT背側域 (PPT-d) と、TH2, GAD65, Nkx2.4陽性のPPT腹側域 (PPT-v) が配置されていた。また、視床下部の外側陥凹周囲について、各種転写因子や脳内因子の分布パターンを詳細に観察した。その結果、LHの吻側域は、vGluT2b, ERa陽性の吻内側域 (LHrm) とvGluT2a, Nkx2.4陽性の吻外側域 (LHrl) に分類された。また、ゼブラフィッシュでHcに含まれていた区画の内側域にもLHrmと類似の分布パターンを示す領域が続いており、ここはPENK-B陽性の大型細胞が多く分布するためLHの尾内側域 (LHcm) と分類した。 以上のように、魚類で広範な遺伝子の分布解析を行い、間脳の詳細な領域の同定に成功した。特に転写因子の分布は、脊椎動物で保存されているプロソメアパターンとも比較が可能であり、魚類の間脳の構造を進化的な観点から理解する上でも助けとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヨシノボリの間脳アトラスの作成が進み、求愛と威嚇の行動に伴い脳の中でc-fos陽性を示す神経細胞の分布を詳細に解析する土台が構築された。この点は非常に大きな進展である。これまで魚類の間脳は、魚種間あるいは他の脊椎動物との間で構造の相同性が不明瞭な点が多く、c-fos陽性細胞が確認されてもそこがどこなのか、どのような機能を有する神経細胞が分布する領域なのか、不明だった。今後、これらの点について明らかにしていくための道筋が得られた。しかし、この成果について論文化の作業が遅れている。早急に論文として公表し、c-fos陽性細胞の解析に進みたい。 また、ヨシノボリの終脳腹側域には、他の魚種では見いだされていない球状で大形の細胞集団が見いだされており、この細胞集団はGAD65, Substance-P, PENK-A陽性のため、哺乳類の線条体に対応する構造ではないかと考えられている (Kawaguchi et al, 2019)。2019年度は、ヨシノボリの脳切片からこの構造をレーザーで切り出し、この領域に含まれる遺伝子群について次世代シークエンサーを用いた網羅的な解析を予定していた。基礎生物学研究所との共同研究としてプロジェクトを進め、レーザーマイクロダイセクションに適した切片の作成条件が確立できた。この結果を受けて基礎生物学研究所にてレーザーマイクロダイセクションの作業を実行する予定だったが、コロナウィルスの蔓延に伴う出張自粛のため、実験を進めることができなくなってしまった。この解析についても、基礎生物学研究所との共同研究を改めて敷き直し、できる限り進めたい。
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