研究課題/領域番号 |
18K06464
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
梅嶋 宏樹 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (40525375)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 神経細胞 / 突起伸長 / RNA |
研究実績の概要 |
神経突起が伸長する過程では突起先端に成長円錐と呼ばれる運動性の高い手のひら状の構造が形成される。成長円錐はガイダンス分子受容体や細胞接着分子を発現させ、周囲の環境を感知しながら適切な接続先へと突起伸長を誘導する。成長円錐には多数のメッセンジャーRNA(mRNA)が存在しており、細胞体とは独立した翻訳機構によって成長円錐に特異的な遺伝子発現を実現することでその機能を維持している。成長円錐における局所翻訳の阻害が神経突起の伸長やガイダンスに影響を及ぼす事例は報告されているが、局所翻訳がどのように制御され成長円錐の機能を実現しているのかはいまだ不明な点が多い。 本研究では、成長円錐の機能を実現するための局所翻訳メカニズムを明らかにすることを目指して、mRNAの化学修飾に着目する。mRNAのアデノシンN6メチル化修飾(m6A修飾)は一部mRNAの特定のアデノシンに可逆的にメチル基を付加することで遺伝子発現を制御する。現在、メチル基を付加する"Writer"、メチル基を消去する"Eraser"、m6Aに結合し翻訳効率やmRNA分解を制御する"Reader"と呼ばれる分子群が見つかっている。これらのm6A修飾関連遺伝子群の発現を分散培養下海馬ニューロンにおいてRNAiノックダウン法を用いて撹乱し、神経突起伸長に対する影響を検討する。さらに、子宮内電気穿孔法を用いて胎生期マウス大脳皮質ニューロンのm6A修飾関連分子を抑制し、神経回路形成への影響を調べる。また、神経突起の伸長や誘導を促す神経成長因子の投与によって起こる局所翻訳応答とm6A修飾経路の関連を調べることで成長円錐における局所翻訳へのm6A修飾の関与を検討する。 近年、mRNAの局所翻訳は神経発達障害などの神経疾患にも関与すると考えられており、本研究はそのような神経疾患の病態理解と治療法開発にも貢献すると期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、m6A修飾関連分子のうちWriterであるMETTL14、EraserであるFTO、ReaderであるYTHDF1~3などのRNAi発現抑制ベクターを作成したうえで、分散培養下海馬ニューロンおよび胎生期マウス大脳皮質ニューロンに遺伝子導入することで当該分子を発現抑制し、神経突起の伸長や神経回路形成への影響を見ることを計画していた。当該分子のRNAi発現抑制ベクターの作成は完了しており、予備的な実験として、分散培養下海馬ニューロンに発現抑制ベクターを導入したところ、いくつかの遺伝子について軸索や樹状突起の伸長および細胞形態の変化などの効果が見られた。しかし、研究代表者が平成30年4月より所属を異動し新しく立ち上がった研究室に参加したことに伴い、研究環境および実験系を再構築する必要が生じたため、その後の研究計画に若干の遅れが生じている。本研究の実施に必要な分子生物学実験、海馬ニューロンの初代培養、子宮内電気穿孔法によるマウス胎児への遺伝子導入などについては実施の目処がついており必要な機材も使用可能であるため、次年度以降は当初の研究計画の内容に大きな変更を加えることなく進めることが可能であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究代表者の異動に伴い研究計画に若干の遅れが生じているため、次年度には今年度に実施する予定だった計画を引き続き行なう。まず、分散培養下海馬ニューロンにRNAi発現抑制ベクターを導入し予備実験において見られた軸索や樹状突起の伸長に対する効果を確認する。さらに、子宮内電気穿孔法を用いて胎生期マウス大脳皮質ニューロンに発現抑制ベクターを遺伝子導入し、神経細胞移動や軸索投射・樹状突起形成といった神経回路形成に関する影響を検討する。また、並行して次年度に実施予定の計画も進める。局所翻訳を介して神経突起の伸長や誘導を促進する神経成長因子NGF、BDNF、軸索ガイダンス分子Netrin-1などの分泌因子を培養条件下の成長円錐に投与し、m6A修飾mRNAの増減やeIF3などの翻訳開始因子の共局在などが影響を受けるかを免疫染色法を用いて検討する。また、m6A修飾関連分子を発現抑制した神経細胞に分泌因子を投与し、突起伸長などの応答が影響を受けるかを検討する。上記の研究に必要な機材などは揃っており問題なく実施可能であると考えられる。また、研究協力者である京都大学の王丹博士とは密に連絡を取っており、ライブイメージングなど特殊な設備を使用する実験に関しては必要に応じて王丹博士の協力を仰いで行なう予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の異動に伴い研究計画の遂行に若干の遅れが出ているため、想定よりも使用額が少なくなった。次年度は今年度実施予定だった計画を行なうとともに次年度に実施予定の計画も並行して進める予定であり、今年度未使用額と次年度分として請求した額を合算した額の助成金を次年度に使用する予定である。
|