研究課題/領域番号 |
18K06467
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
板倉 誠 北里大学, 医学部, 准教授 (30398581)
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研究分担者 |
小寺 義男 北里大学, 理学部, 教授 (60265733)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インポーチン / 核輸送 / シナプス伝達 / シナプス可塑性 / プロテオーム解析 |
研究実績の概要 |
記憶などの高次脳機能においては、神経細胞間のシナプス伝達効率が可塑的に変化することが重要である。このシナプス伝達効率の短期的な変化には、リン酸化などの翻訳後修飾が関与しているが、長期的な変化には、核での新規mRNAの転写が必須とされている。そのため、特定のシナプスにおいてシナプス伝達が行われたことを核へと伝える必要があるが、その詳細な分子機構は明らかになっていない。申請者は、細胞質から核内へとタンパク質を輸送するインポーチンbeta1が、ポストシナプスに存在することを見出している。そこで本研究では、インポーチンbeta1が、ポストシナプスにあるタンパク質を核に輸送しているかを明らかにすることを目的とする。 インポーチンは約30種類のファミリー分子が存在し、ホモ二量体およびヘテロ二量体で働くことが知られている。そこで、インポーチンbeta1抗体の免疫沈降物のショットガン解析を行って、神経細胞におけるインポーチンbeta1のヘテロ二量体のパートナー分子の同定を試みた。結果、インポーチンalpha1 (KpnA2), インポーチンalpha4 (KpnA3), インポーチン7の3つの分子を同定した。 さらにKpnA3抗体を作成しマウス脳の免疫染色を行ったところ、海馬CA1の錐体細胞の核および樹状突起にシグナルが検出された。したがって、KpnA3もまたポストシナプスや樹状突起から核へとタンパク質を輸送する可能性が示唆された。そこで、KpnA3抗体の免疫沈降物についてもショットガン解析を行った。共沈物として、ユビキチン化関連タンパク質およびKohlschutter-Tonz 症候群の原因遺伝子であるRogdi homologを同定した。さらに、インポーチンbeta1も共沈物から同定でき、神経細胞内にインポーチンbeta1とKpnA3のヘテロ二量体が存在することも確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シナプス伝達効率の長期的な増強(LTP)のようなシナプス可塑性が起こる際に、インポーチンファミリーによってポストシナプスから核内へと輸送されるタンパク質を同定するために、0.003 mmポアサイズのメンブレンが貼られたトランズウェルを用いて、マウス大脳皮質神経細胞の培養を行った。メンブレンの裏側からタンパク質を回収し、イムノブロットを行ったところ、核内タンパク質であるヒストンH3は含まれていなかった。よってトランズウェルのメンブレンの裏側から神経突起のみを回収できることが確認できた。次に、chemical LTP処理を行った神経細胞とコントロールとなる神経細胞の神経突起について、タンパク質の定量比較解析を行う予定である。 また作成したインポーチン抗体の免疫沈降物の解析から、インポーチンbeta1はSUMO化を促進するタンパク質,インポーチンalpha4 (KpnA3)は脱ユビキチン化酵素と複合体を形成しているという新たな知見を得た。SUMO化やユビキチン化は、リン酸化と同様に可逆的なタンパク質の翻訳後修飾であり、長期的なシナプス可塑性の制御を担っている分子機構の候補として非常に興味深い。そこで本年度は、インポーチンファミリーと核タンパク質のSUMO化やユビキチン化との関係も解析を進める予定である。 したがって、研究の進捗状況としては、申請書の研究内容を着実に進めるとともに、新規な知見も得ることができているため、おおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
インポーチンbeta1抗体による免疫沈降物を解析したところ、他のインポーチンファミリー分子であるKpnA2, KpnA3, インポーチン7を同定した。そこで、新たに同定したインポーチン分子の解析も行う。KpnA2については特異抗体を作成し、マウス脳の免疫染色および免疫沈降物のショットガン解析を行い、KpnA2の神経細胞での機能を推定する。 前年までの研究により、神経細胞に発現するインポーチンは、ユビキチン化やSUMO化に関与することが示唆された。そこで株化細胞および培養神経細胞のインポーチンbeta1,KpnA2、KpnA3,インポーチン7を、siRNAを用いてノックダウンし、ノックダウンした細胞のタンパク質の翻訳後修飾を、LC-MS/MSを用いたプロテオームとイムノブロットで解析する。また神経細胞のインポーチンが、核に局在する転写制御因子とも複合体を形成することを明らかにしている。そこでこれら転写制御因子とEGFPとの融合タンパク質を培養細胞に発現された後、インポーチンファミリーをノックダウンし融合タンパク質の局在が変化するかを調べる。 さらにマウス大脳皮質神経細胞を、0.003 mmポアサイズのメンブレン上で培養し、0.2 mM グリシン入りの人工脳脊髄液で処理することでchemical LTPを誘発する。その後、メンブレンの裏側に伸びた神経突起を、セルスクレーパーを用いて回収する。コントロールおよびchemical LTPを誘発した神経突起のタンパク質の存在量を、LC-MS/MSを用いたプロテオームとイムノブロットにより解析する。Chemical LTPで神経突起の存在量が減るタンパク質が、インポーチンによって核輸送されるタンパク質の候補である。次にインポーチンファミリーのsiRNAでノックダウンすることで神経突起の存在量の変化を抑制できるかを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用を予定していた消耗品(抗体など)の一部が輸入や欠品のため、納入が次年度になってしまったためで、おおむね申請額を使用した。
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