研究実績の概要 |
記憶や学習には、神経細胞間でシナプス伝達が行われたことが、ポストシナプスから核内へと伝わり、新規に遺伝子が発現することが必須である。ポストシナプス膜に存在するAMPA型グルタミン酸受容体結合膜タンパク質に核輸送因子インポーチンbeta1が結合すること、またインポーチンbeta1が、逆行性モータータンパク質ダイニンと複合体を形成することを我々は見出している。そこで、インポーチンbeta1がシナプス伝達を核内に伝える重要な役割を果たしているのではないかと考え、本研究を行った。 まずインポーチンbeta1の免疫沈降実験を行い、共沈するタンパク質を、質量分析器を用いて網羅的に同定した。インポーチンファミリーはヘテロ2量体として機能することが知られているが、マウス海馬においては、主にインポーチンalpha3, alpha4, 7と結合していることを明らかにした。またインポーチンalpha3, alpha4, 7の抗体で免疫沈降実験を行ったところ、筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子TDP-43などを含む転写制御因子が共沈物に含まれていた。さらに最初期遺伝子c-Fosの発現誘導に関与する転写因子もインポーチンと複合体を形成していた。 最終年度は、インポーチンファミリーの機能に関与する低分子量Gタンパク質Ranの制御因子(RanGEF, RanGAP)の解析を行った。ニューロトロフィンの受容体であるTrk受容体を活性化すると、その下流でRanGAP1がリン酸化されることがわかった。これまでに、細胞周期依存的なリン酸化によってRanGAP1の活性が制御されていることが報告されている。よって、今回得られた結果は、神経細胞の生存やシナプス伝達を制御しているニューロトロフィンが、インポーチンファミリーによる核輸送も制御している可能性を示唆している。
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