研究課題/領域番号 |
18K06469
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
島崎 琢也 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (00324749)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / 神経前駆細胞 / p38 / 老化 / 増殖 / 成体脳 |
研究実績の概要 |
哺乳動物の神経幹/前駆細胞(NSPCs)は発生の進行に伴って可塑性と増殖能が低下して行き、成体においても神経新生を行っている側脳室下帯(aSVZ)と海馬歯状回(DG)顆粒下帯(SGZ)以外の領域ではほとんどがグリア細胞へ分化し、一部が潜在的NSCあるいは前駆細胞(NPC)として静的状態で残る。成体におけるaSVZとSGZでの神経新生も、NSPCsの増殖能の低下により加齢とともに低下行くが、その制御機構についてはあまり良く分かっていない。そこで本研究では、成体NSPCsがいかに老化し神経新生能を低下させていくかを明らかにすることを目的として、そこにおけるp38 MAP-Kinaseの役割に焦点を当てた。これまで、NSPCsに発現している主要p38であるMapk14の成体NSPCs特異的なコンディショナルノックアウト(CKO)マウスでは、NSCsから生まれる中間型前駆細胞NPCsの増殖が低下し、さらに、Mapk14を老齢マウスaSVZのNSPCsに強制発現させると、低下したNPCsの増殖能と神経新生能が回復することを確認した。次に、Mapk14遺伝子ノックダウン(KD)や加齢による NSPCsでの発現変化を定量的PCRによって解析したところ、Wntシグナルの阻害タンパク質をコードしているDkk1およびSfrp3遺伝子の発現が、Mapk14KDおよび加齢によって上昇していることが明らかになった。そこでこれらの遺伝子をMapk14CKOおよび老齢マウスNSPCsでノックダウンすると、NPCsの増殖低下がレスキューされ、老齢aSVZにおいては神経新生の回復が観察された。また、Mapk14をマウス側脳室脳室下帯において強制発現させ、1年後に解剖・解析してみると、神経幹細胞の枯渇を招くことなく老化脳実質の萎縮により引き起こされる側脳室の拡大が抑制され、神経新生が促進されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウス成体NSPCsにおいて、p38の発現は老化とともに低下して行き、その低下は分化した神経細胞でも同様であり、その発現制御機構の解明が成体NSPCsの老化機構の解明に大きな前進をもたらすことを示している。そこでまず、p38の加齢による発現低下がタンパク質レベルのものなか、mRNAレベルなのか免疫染色、ウエスタンブロッティングおよびMapk14のqPCRによって6週齢と6ヵ月齢マウスSVZ由来NSPCsにおける発現比較を行ったところ、免疫染色による絶対定量ではわずかに検出できる程度までに顕著に低下していたのに対して、qPCRによる相対定量では半分程度の低下しか見られなかった。また、既存データベースにより、8週齢と18ヵ月齢のマウスSVZ由来NSPCsにおけるMapk14プロモーターと思われる領域のヒストンH3のメチル化およびアセチル化状態を比較したところ、顕著な差はみられなかった。これらのことは、Mapk14の老化による発現低下が、翻訳効率の低下か、あるいは老化によりmRNA全体の転写量が低下に起因していることを示唆していた。そこで、野生型およびMapk14CKO のSVZ由来NSPCsにおいて、Percellome法という外部コントロールを用いた絶対定量マイクロアレイ解析法によってトランスクリプトーム解析を行うべく、様々な週齢のマウスを準備しているが、未だ解析には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
引続き、p38, Dkk1およびSfrp3の発現制御機構に焦点を当て、その解明を目指す。具体的には、これらの遺伝子の転写制御領域含む領域のゲノム構造、ヒストン修飾、DNAメチル化およびゲノム高次構造の比較解析を、Mapk14CKOおよび老齢マウス由来培養NSPCsを用いて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
トランスクリプトーム解析に至ることができず、経費が減少した。繰り越し分はそこに充当する予定である。
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