マウス成体NSPCsにおいて、p38の発現は老化とともに低下して行き、その低下は分化した神経細胞でも同様であり、その発現制御機構の解明が成体NSPCsの老化機構の解明に大きな前進をもたらすことを示している。そこでまず、p38の加齢による発現低下がタンパク質レベルのものなか、mRNAレベルなのか免疫染色、ウエスタンブロッティングおよびMapk14のqPCRによって6週齢と6ヵ月齢マウスSVZ由来NSPCsにおける発現比較を行ったところ、免疫染色による絶対定量ではわずかに検出できる程度までに顕著に低下していたのに対して、qPCRによる相対定量では半分程度の低下しか見られなかった。また、既存データベースにより、8週齢と18ヵ月齢のマウスSVZ由来NSPCsにおけるMapk14遺伝子のプロモーターと思われる領域のヒストンH3のメチル化およびアセチル化状態を比較したところ、顕著な差はみられなかった。これらのことは、Mapk14の老化による発現低下が、未同定のエンハンサー活性の低下、翻訳効率の低下、あるいは老化によるmRNA全体の転写量が低下に起因していることを示唆していた。また、その下流で発現が制御されているDkk1およびSfrp3遺伝子についても、それらのプロモーターと予想される領域のヒストンH3のメチル化およびアセチル化状態を比較したところ、加齢による顕著な差はみられなかった。このことは、Dkk1およびSfrp3遺伝子の発現は加齢およびMapk14の発現低下により上昇することから、Mapk14の下流で活性が制御されているエンハンサーが存在するか、あるいはmRNAの分解の制御が行われている可能性を示唆していた。
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