研究実績の概要 |
神経シナプスにおいて活動電位に同期・非同期して起こるシナプス小胞の放出パターンは、神経細胞間情報伝達の性質に大きく影響する重要因子である。しかし、そのパターンを決めるメカニズムは不明な点が多い。本研究では、小脳平行線維シナプスにおけるシナプス小胞放出数を用いた定量的・統計的解析とシミュレーションから、同期・非同期性放出パターンを共に説明する統一的な数理モデルの構築に成功した(Miki et al., Nat Commun 2018;Malagon et al., eLife 2020)。このモデルから我々は、(1)シナプス小胞は放出までに再充填プール、充填部位、放出部位を経由すること、(2)放出・充填部位に存在する小胞が同期性放出を再充填プールに存在する小胞が非同期性放出を担うことを提唱した。 最終年度は、このモデルで予想された頻回刺激時の放出部位への高速なシナプス小胞充填の存在を実証するため、シナプス小胞動態を超解像度蛍光顕微鏡にて直接観察し小胞の膜近傍への動員について研究を行った。シナプス小胞を蛍光ラベルした小脳苔状線維シナプス前終末を単離し、ガラスに貼り付け、パッチクランプ法を適用し脱分極刺激を与えた時のシナプス小胞の膜融合および膜近傍への動員を全反射照明蛍光顕微鏡にて観察した。結果、膜近傍への小胞動員は膜融合とほぼ同期して起こった(時定数:約100ms)。この速い小胞動員は、膜融合を阻害すると起こらなかったことから、膜融合と連動して起こることが示唆された。また、この動員された小胞が放出可能な小胞になるには300-400ms必要であることが分かった。モデルシミュレーションの結果、この速いシナプス小胞動員は、高頻度神経活動時の持続した神経伝達物質放出に必須であることが示唆された。これらの研究は、学術論文として報告した(Miki et al., PNAS 2020)。
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