研究課題/領域番号 |
18K06476
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
林 健二 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 助教 (50512349)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経可塑性 |
研究実績の概要 |
一次視覚野では外界からの入力に伴い、眼優位可塑性が起こることが知られる。通常、マウス一次視覚野の両眼視領域では両眼からの視覚入力に対する応答が特定のバランスで均衡するが、臨界期に片眼遮蔽すると大部分の細胞は開眼側の視覚入力に対して反応するように選択性が大きくシフトする。現在までの研究により可塑性の分子メカニズムの詳細は分かりつつあるものの、従来の解析ではあくまで細胞の平均的な挙動を解析の対象としていた。可塑的な変化の強度の違いがその後の細胞ごとの多様な運命を決定する可能性があるが、そのような観点からの研究は進んでいない。In vivo カルシウムイメージングと一細胞由来のmRNAの遺伝子発現の解析を行うことで、そのメカニズムを明らかにすることを目的とする。 令和1年度は、神経可塑性に関わることが知られるNOS(nitric oxide synthase)に着目して実験を行った。NOS1遺伝子は、神経細胞に発現する遺伝子で、シナプス伝達の可塑性に関与することがよく知られている。NOSの遺伝子発現強度と眼優位可塑性の変化の強度の違いを調べることは、本研究を進める上で良い指標となる。令和1年度はNOS1細胞特異的にCreを発現するマウスで、AbScaleを用いた免疫組織学的な解析を適用することで、詳細なNOS1発現細胞のサブタイプの同定を試みた。その結果、NOS1発現細胞は、従来考えられてきたよりも多様なサブタイプから構成されることが明らかとなってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遺伝子の発現解析とin vivo Ca2+イメージングを組み合わせる際に、実験系がうまく動くいているかどうかを判断する必要があった。そこで令和1年度は、神経細胞に発現し神経可塑性に関与することが知られるNOS1遺伝子に着目し、眼優位可塑性における機能を評価することを目指した。この目的を達成するために、NOS1発現細胞でCreを発現するトランスジェニックマウスを用いて解析を進めた。これまでに、AbScaleを用いた免疫組織学的な解析で、NOS1の発現が様々な細胞サブタイプで見られることが分かってきた。In vivo Ca2+イメージングによりNOS1発現細胞の性質を詳細に定量評価したところ、自発活動レベルが非常に低いこと、さらに視覚応答性は見られるものの、細胞内Ca2+濃度の減衰が、その他の細胞と比較して著しく遅いことが明らかとなった。今後、NOS1 発現細胞の活動を操作するために、DREADDの実験系の立ち上げを行い、NOS1発現細胞をアゴニスト依存的に制御することが可能となった。NOS1の複雑な細胞サブタイプの発現パターンがあることが分かったため、プロモーターの選別や発現強度の調整が困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後、令和1年度に準備したDREADD発現システムとin vivo Ca2+イメージングを組み合わせて神経細胞に与えるNOの機能を解明を目指している。具体的には、NOS1発現細胞を活性化した際に、周囲の細胞の視覚応答特性がどのように変化するかを経時的に観察しようと考えている。また、NOが眼優位可塑性に与える影響を解析する。対照実験となる、野生型マウスで眼遮蔽により眼優位性のシフトが起こることは、GCaMPを用いた我々の実験系でも確認できた。細胞の可塑性の強度とDREADDを発現しているNOS1発現細胞との距離との関係を評価することが可能である。また、NOS1発現細胞のサブタイプをAbScaleで同定することも可能であることから、両者を組み合わせることで、NOS1発現細胞の可塑性に対する作用の強さをサブタイプごとにpost hocに解析することを目指している。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNAseqを予定していたが、研究方針に変更があったため行わなかった。さらに、代わりにトランスジェニックマウスを用いた研究を進めているが、交配の時間があったため、次年度使用額が生じた。
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