研究課題
昨年度までの研究によって、終脳においてFlightless-I(Flii)を欠損したマウスは、大脳皮質が萎縮していることが明らかにしていた。本年度は、この結果を発展させ、終脳特異的Fliiノックアウト(KO)マウスの行動の網羅的な解析を行った。行動テストバッテリーは、オープンフィールド試験・ロータロッド試験・3チャンバーテスト・プレパルス抑制試験・Y字迷路試験・高架式十字迷路試験・恐怖条件付け記憶学習試験・モリス水迷路試験から構成され、マウスは体外受精によって生産した8週齢のオスを用いた。まず、オープンフィールド試験とロータロッド試験を行った結果、コントロールと終脳特異的Flii KOマウスとの間で自発運動量および運動機能に大きな違いは認められなかった。また、3チャンバーテストによって社会行動の測定を行ったが、コントロールと終脳特異的Flii KOマウスとの間で有意な差は認められなかった。プレパルス抑制試験においても驚愕反応の抑制割合は両者とも正常であったことから、終脳特異的Flii KOマウスに統合失調症様傾向は認められないと考えられた。Y字迷路・高架式十字迷路・恐怖条件付け記憶学習・モリス水迷路はマウスの記憶学習を測定する試験である。これらについてもコントロールと終脳特異的Flii KOマウスとの間で有意な差は観察されなかった。しかし、恐怖条件付け学習試験において、条件刺激提示前のFreezingの割合が終脳特異的Flii KOマウスにおいて増加していることが明らかとなった。終脳特異的Flii KOマウスは大脳皮質が萎縮しているにも関わらず、行動レベルでは大きな違いが認められなかった今回の結果は非常に興味深いものであると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
終脳特異的Flii KOマウスの行動試験バッテリーにおいて大きな異常は認められなかったが、十分なn数を用いた実験を行うことができ、信頼性の高いデータを得ることができたため。
終脳特異的Flii KOマウスにおいて記憶学習などに影響がなかったことから、大脳皮質の萎縮がどのような脳機能に影響を与えているのか探っていきたい。また、解剖学的に大脳皮質のどの機能領域が大きく萎縮しているのかを、免疫染色およびin situ hybridizationによって明らかにすることで、Fliiの脳機能や脳発達における役割を明らかにできると考えられる。
新型コロナウイルスの影響により、動物実験を中断せざるを得ず、研究予定がずれこんだため。また旅費なども計上していたが、同様の理由で使用がなくなったため。次年度はずれ込んだ研究予定を行うために、試薬や実験器具に使用を充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 備考 (1件)
Proc. Natl.Acad. Sci. USA
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Diabetes
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http://lar.cdbim.m.u-tokyo.ac.jp/index.html