研究課題/領域番号 |
18K06479
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
酒井 晶子 新潟大学, 医歯学総合研究科, 日本学術振興会特別研究員 (70532745)
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研究分担者 |
中戸 隆一郎 東京大学, 定量生命科学研究所, 講師 (60583044)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 臨界期 / 神経回路可塑性 / パルブアルブミン陽性(PV)細胞 / クロマチン / コヒーシン / コルネリア・デ・ランゲ症候群 |
研究実績の概要 |
子どもの脳の発達過程には、適切な神経回路形成を行うために、経験に応じて可塑性が高まる「臨界期」がある。我々は臨界期の分子機構をクロマチン制御の観点から理解することを目的として、ゲノム制御領域間の相互作用を司り遺伝子発現を調節するコヒーシンに焦点を当てて研究を行っている。本年度は臨界期におけるコヒーシンの役割を検討するために、精神遅滞を伴うCornelia de Lange(CdLS)症候群の原因遺伝子であるコヒーシン関連因子のコンディショナルノックアウトマウスを用いた解析を進めた。臨界期に重要な抑制性ニューロンであるPV細胞におけるコヒーシン機能欠損マウスを用いて、PV細胞特異的なトランスクリプトーム解析(RNA-seq)を行った。その結果、コヒーシン機能欠損による発現変動遺伝子は、統合失調症に関係するK+チャネル等、PV細胞の機能発達に関わるものが多く見られた。これは組織学的にコヒーシン機能欠損PV細胞で成熟が遅延するという結果を裏付けるものであった。これらのことからコヒーシンの機能が低下したPV細胞では、経験によるPV細胞の発達に必要な遺伝子発現の変化が正確に制御されないと考えられた。加えていくつかのクロマチン制御因子の発現が低下していることから、臨界期PV細胞において複数の因子が遺伝子発現の制御に関わる可能性が考えられる。現在さらに、臨界期におけるPV細胞の遺伝子発現に関わる制御領域を明らかにするため、ATAC-seqによりオープンクロマチン解析を行う準備を進めている。本年度は分取したPV細胞からATAC-seqを行う系を構築し、ライブラリー作成を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コヒーシン機能欠損の臨界期における影響を調べるにあたり、当初の計画では大脳皮質の神経細胞を用いる予定であったが、より細胞種特異的な解析を行うために抑制性ニューロンの一種であるPV細胞に絞ったRNA-seqを行った。PV細胞は大脳皮質の中で少数であるためセルソーターによる分取で得られる細胞数が少ないこと等から、材料の準備や実験条件の試行錯誤に時間がかかったが、細胞種特異的な解析の系を確立したことでより特異性の高い、明確な結果を得ることが可能となったと考えている。また、ATAC-seqにも着手し、準備を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はATAC-seqによるオープンクロマチンサイトの同定を行い、トランスクリプトームの結果と共に詳しい解析を進めることで、臨界期にPV細胞が成熟していく過程で遺伝子発現および制御領域がどのように変化していくのか、またその過程におけるコヒーシンの役割を明らかにしていく。さらに、組織学的にも脳神経細胞においてコヒーシン機能欠損によりクロマチン因子に影響があるかを検討する。また、大脳皮質神経細胞の8割を占める興奮性ニューロンについても、コンディショナルノックアウトマウスを用いた解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定を変更して細胞数の少ないPV細胞に絞ったことで、実験条件の試行錯誤が必要となり進捗が遅れたため、物品費として主に計上していた次世代シークエンサー使用に掛かる金額を、次年度使用額として繰り越す。
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