研究課題
本年度は、緑内障モデルマウス網膜の加齢性変化をミクログリアを中心に解析した。最近、神経変性疾患モデルにおいて老化グリアがその発症原因である可能性が報告されたため、網膜の細胞老化マーカー遺伝子(Cdkn2a, Cdkn1a, Serpine1, Cdkn2d)の発現を計測したところ12ヶ月齢のP2Y6KOマウス網膜では野生型に比べ顕著に増加している事を発見した。野生型マウスでは12ヶ月齢でもそれら遺伝子は全く変動せず、P2Y6KOマウスでは細胞老化が促進している事が明らかとなった。網膜の細胞老化とミクログリアとの因果関係を調べるためColony Stimulating Factor 1 Receptor antagonistを用いてミクログリアを除去した。ミクログリアを 除去すると前述の遺伝子群はすべて若齢の野生型と同等のレベルまで減少したことから、ミクログリア自身が細胞老化を起こしている可能性が示された。ミクログリアの網膜内の空間分布を検討したところ、視神経乳頭部や血管に接触するミクログリアの数が多い傾向が認められた。また、Isolectin B4強陽性ミクログリアがP2Y6KOマウスでは認められ、これらのミクログリアは細胞老化マーカーSIX6や貪食マーカーCD68陽性であり、ミクログリアの異常な表現型が誘導されている可能性が示された。ミクログリアの表現型と神経障害との関連性を評価するため、急性誘導型緑内障モデルを用いて検討を行った。本モデルはNMDAを硝子体内に投与する急性障害モデルであるが、ミクログリアは投与後3時間から活性化及びTNFa発現増加を示し、ミクログリア抑制や除去の他、TNFa発現を抑制することで神経保護効果が得られた。以上の結果より、本年度は緑内障モデルにおけるミクログリア表現型の変化とその神経障害機構の一端を明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
本研究目標として掲げていた項目のうち、網膜ミクログリアの細胞特異的な変化について「細胞老化」「貪食」の観点からメカニズムの一端を明らかにできた点。また、ミクログリアの変化が神経障害に関わる可能性を明らかにした点。これらの一部は論文(Takeda, Shinozaki et al. GLIA 2018)に投稿し、受理された事などが理由である。現在、さらに詳細に緑内障モデルマウスにおけるミクログリアの機能異常に関する分子メカニズムについて検討を進めており、概ね順調に推移している。特に、緑内障モデルにおいてミクログリアが視神経乳頭部に集積する事に着目して検討したところ、当該部位にP2Y6受容体発現が顕著に高い事やミクログリアも網膜に比べて顕著に集積している事が明らかとなっている。この部位は緑内障早期の異常に関与する部位であり、この領域のミクログリア機能を解析することによってより早期の病態メカニズムの解明に繋がると考えている。
昨年度の結果で未解明な部分を更に解析する。具体的には(1)細胞老化を起こしたミクログリアの機能異常に関わる更に詳細な分子メカニズム。(2)視神経乳頭部や視神経におけるミクログリアの機能異常と(3)その分子メカニズムの解明、そして(4)それらを起点とした神経保護機構の解明を目的として研究を推進する予定である。
実験に使用するモデルマウスの交配が一部不調であり、それらの管理費用や予定していた個体の実験などに変更が生じたため。現在、交配の条件を改善して順調に個体が得られているため、次年度に使用可能の見込みである。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
GLIA
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10.1002/glia.23475
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10.1016/j.ebiom.2018.05.036
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Neurourology and Urodynamics
巻: 37 ページ: 942-951
10.1002/nau.23400
http://www.ccn.yamanashi.ac.jp/~yshinozaki/Home.html