研究課題
昨年度の結果をさらに深く解析するため、緑内障の病態発現に最も重要な視神経乳頭部(ONH)に着目した。各組織のmRNA発現解析の結果、P2Y6受容体の発現はONHで顕著に高い事が明らかとなった。また、ミクログリアマーカーAif1遺伝子の発現もONHで高く、本モデルマウスONHでの変化が病態発現に重要であると考えられた。次に、野生型及びP2Y6KOマウスの網膜及びONHを網膜神経節細胞(RGC)の脱落が生じない3ヶ月齢またはRGC脱落が生じる12ヶ月齢の個体より採取し、mRNA発現を次世代シーケンサーにて網羅的に解析した。主成分分析の結果、網膜とONHは異なるクラスターを形成しており、ONHで特異的な変化が生じているものと考えられた。3ヵ月齢のONHにおける変化をKEGG Pathwayで解析したところ、最も上位のキーワードが「ECM-receptor interaction」であり、緑内障の病態発現に重要であるONHの組織再編を反映するものと考えられた。このような遺伝子群の変化は、高眼圧型緑内障モデルであるDBA/2Jマウスにおいても早期の発現増加が認められるため、高眼圧型依存的な病態メカニズムであると推定された。一方、12ヶ月齢では酸化的リン酸化に関わる遺伝子群の発現低下が認められ、エネルギー産生能の低下が起きている可能性が示された。ミクログリアが寄与するメカニズムを明らかにするためにCSF1受容体拮抗薬を7日間投与してミクログリアを除去したONHの発現解析を行った。その結果、GO Enrichment Analysisにより「ECM organization」に関係する遺伝子群が最も多く、ミクログリアが組織リモデリングに寄与する事、並びに疾患の慢性期においてもミクログリアをコントロールする事によって組織の正常化を誘導できる可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究目標として掲げていた項目のうち、緑内障発症に関わる詳細な分子メカニズム解明のため、網膜及びONHの次世代シーケンサーによる解析を行った。昨年度は網膜に着目した解析を行ったが、P2Y6受容体やミクログリアマーカー遺伝子の発現量から、ONHにフォーカスして研究を進めた。本モデルマウスの病態発現は神経傷害を指標とした場合、3ヶ月齢では全く傷害が認められず未病(presymptomatic)の状態にあると考えられる。興味深い事にそのような時期に既に緑内障病態に重要な組織リモデリングが起きていると推察された。細胞外マトリックス受容体の1つであるインテグリンを介したシグナルは細胞老化を誘導するメカニズムである事が最近報告されている(Shin et al. Sci Adv 2020)事から、ONHでのECM-integrinシグナルが昨年同定したミクログリアの細胞老化の誘導に関与するものと考えられた。我々の用いたP2Y6KOマウスは4週齢以降慢性的高眼圧を示す事から、持続的な負荷がミクログリアの異常と緑内障病態の発露に繋がると考えられる。このような慢性的なミクログリアへの負荷が細胞の表現型を保護的なものから神経傷害的なものにシフトさせる細胞内メカニズム同定した(Shinozaki et al. JNC 2019)。
本年度に得られた結果をさらに詳細に解析し、緑内障病態の発症、並びに慢性化への推移に関わる分子メカニズムの解明を行う。また、本年度の結果から、予想よりも早期にONHでの変化が認められたことから、CSF1R拮抗薬によるミクログリア除去による遺伝子発現変化を基に早期のミクログリア依存的なメカニズムについて明らかにする。併せて、(1)ミクログリアを標的とした緑内障予防法の可能性、並びに(2)慢性期におけるミクログリア制御による治療法の探索を進める予定である。
年度末にかけて新型コロナウイルスの影響により、研究室への出入りが制限されることとなったために予定していた実験に関する試薬類の一部に輸送に遅延が生じた。現在、状況はかなり改善されたためこれらの試薬を調達して次年度早期に予定していた実験を再開する。
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