研究課題
P2Y6受容体欠損は、12カ月齢(mo)で網膜神経節細胞(RGC)の脱落を生じた事から、この時期のミクログリアの役割について検討を行った。この点を明らかにするために、Colony Stimulating Factor 1 Receptor (CSF1R)アンタゴニスト(以下PLX)を用いた。中枢神経系のミクログリアは、生存・維持にCSF1Rシグナルを必要とするため、1週間程度のPLX経口投与により約90%の脳ミクログリアが可逆的に消失する事が知られている。同様の方法で網膜でも顕著にミクログリアの細胞数が減少した。この状態での遺伝子発現をRNAシークエンスにより計測し、Gene Ontology(GO)エンリッチメント解析やKEGGパスウェイ解析などを行った。その結果、ミクログリアは網膜内でRGCや視神経にネガティブな効果を持つと推定された。また、ミクログリアの有無でウイルス感染に関わる経路が大きく変化する事を発見した。それらにはType I Interferon IFN経路が含まれていたが、この経路は感染によって誘導されるが、近年Type I IFN産生に関わるcGAS-STING経路が細胞老化を介して癌や様々な神経変性疾患の原因となる可能性が報告されている。実際、網膜の細胞老化遺伝子発現はP2Y6KOマウス網膜でのみ顕著に増加し、PLXによって元のレベルに戻った。本結果より、P2Y6KOマウスではcGAS-STING経路を介した細胞老化が生じている可能性が明らかとなった。P2Y6KOマウスでは、オートファジー関連遺伝子が多数低下していた事から、ミトコンドリアの不全によるDNA漏出の可能性が推察された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、緑内障病態が発現する12カ月齢の網膜の解析を行った。ミクログリアの病態への寄与を明らかにするためにCSF1Rアンタゴニスト(PLX)を投与して網膜ミクログリアを除去した際の遺伝子発現変化を解析した。PLXにより上昇する遺伝子群ではGOで「Visual Perception」、KEGGで「Axon Guidance」などのキーワードが認められた。つまり、ミクログリアは網膜内でネガティブな効果を持つと推定された。PLX処置群ではGOで「Viral Response」「Type I Interferon(IFN)」などが低下していた。Type I IFNは感染によって誘導されるが、PLX処置により「Response to bacterium」(GO)や「Influenza A」「Hepatitis C」「Herpes Simplex Infection」など感染応答に関連する経路が低下していた事から、ミクログリアがこれらの経路に関与すると推定された。近年Type I IFN産生に関わるcGAS-STING経路が細胞老化を介して癌や様々な神経変性疾患に寄与する事が知られている。P2Y6KOマウス網膜における各種細胞老化遺伝子の発現変化を検討したところ、p16INK4AはWTでは加齢によって変化しなかったが、P2Y6KOマウスでは加齢によって増加し、PLXによってその変化が消失した。その他 p21/Waf1やSerpine1など他の細胞老化マーカーや、Tnfaなどの細胞老化が産生する分子の発現も同様の変化を示しており、ミクログリアが細胞老化を示す可能性が考えられた。
cGAS-STING経路を阻害する事によって細胞老化が抑制できるかについて検討する。併せて、これらの経路が活性化する上流のメカニズムについて検討を進める予定である。ミクログリアP2Y6受容体はオートファジーを制御する事から、その不全はミトコンドリアの異常とそれに伴うDNA漏出、cGAS-STING経路活性化に繋がる可能性が考えられる。今後はこの経路について検討を進めるとともに、これらを標的とする治療薬候補の探索も行う。
新型コロナウイルス蔓延の影響で実験の一部を翌年度分の請求とする事にした。翌年度は、ミクログリアのcGAS-STING経路やオートファジー経路の活性化を検討・制御するための消耗品類に使用する予定である。
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