研究課題/領域番号 |
18K06486
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
遠藤 光晴 神戸大学, 医学研究科, 講師 (90436444)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Ror2 / アストロサイト / グリア細胞 / 脳損傷 / 神経炎症 / 組織リモデリング / 神経保護 / 神経傷害 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに外傷により損傷を受けた脳内では増殖因子であるbFGFが産生され、その刺激を受けた損傷部周囲に位置するアストロサイトにおいて受容体型チロシンキナーゼRor2が発現誘導されることにより、アストロサイトの増殖が促進されることを明らかにしている。また、Ror2発現アストロサイトの周りには損傷による細胞死を免れた神経細胞が存在しており、Ror2発現アストロサイトがシナプス形成促進因子であるThrombospondin-2を分泌することにより新たなシナプス形成が促進され、神経回路の再構築が促される可能性を見出している。今年度は、bFGF刺激によるRor2の発現誘導機構を解析し、転写因子E2F1がRor2プロモーターに直接結合することによりRor2の転写誘導に働くことを明らかにした。さらに、Ror2による細胞増殖制御機構を解析し、Ror2はPI3K/Akt経路を活性化することでFoxO3aによるp21、p27の転写を抑制する働きをもち、この機構により、E2F1を介する細胞周期G1期からS期への進展が著しく促進されることを明らかにした。以上の研究成果をFASEB J.誌において発表した。また、Ror2発現アストロサイトは、損傷部に集積したミクログリア等の免疫細胞を取り囲み、ミクログリアが放出するIL-1β等の炎症性サイトカインの刺激を受ける。本年度は、bFGFとIL-1βの刺激を同時に受けたアストロサイトでは、それぞれの単独刺激と比較してPI3K/Akt経路が強く活性化され、その結果、Thrombospondin-2の発現が亢進することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
bFGF刺激によるRor2の発現制御機構およびRor2による細胞周期制御機構を明らかにし、FASEB J.誌に発表した。また、Ror2がAktの活性化を介してシナプス形成因子であるThrombospondin-2の発現誘導に働くことを明らかにした。これらの進展状況から、本年度のマイルストーンを達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
アストロサイトのin vitro培養系を用いて、bFGFとIL-1βの共刺激に依存してRor2の発現が著しく上昇する分子機構を明らかにする。また、動物モデルを用いてアストロサイトにおけるRor2シグナルの破綻が脳損傷後の組織修復に与える影響を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)アストロサイト特異的Ror2欠損マウス(Ror2-flox;GFAP-Creマウス)を用いた解析を行うことを計画していたが、想定外な問題が生じたことによりGFAP-Creマウスの系統が途絶えてしまい、本系統を再度導入して新たに繁殖する必要が生じ、本マウスを用いた一部の解析を次年度に延期せざるを得なかったため。 (使用計画)翌年度分として請求した助成金については、当初の計画どおりに使用するとともに、次年度使用額については、アストロサイト特異的Ror2ノックアウトマウスを用いた解析に使用する。
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