我々はこれまでに外傷により損傷を受けた脳内ではIL-1βやTNF-αなどの炎症性サイトカインとbFGFなどの増殖因子が産生され、損傷部周囲に位置するアストロサイトがこれらの刺激を同時に受けることにより受容体型チロシンキナーゼRor2の発現が強く誘導されることを明らかにしている。今年度は、損傷脳内のアストロサイトにおいてRor2が発現誘導される意義について解析を進め、Ror2が酸化ストレス防御因子であるNrf2の核内蓄積を促進し、その標的遺伝子であるHO-1の発現亢進に働くことによりアストロサイトの酸化ストレス耐性能を促進することを明らかにした。損傷脳内では出血等による酸化ストレスが亢進することから、Ror2の発現誘導はこれらの酸化ストレスの存在下においてアストロサイトが生存・増殖するために重要であると考えられる。また、Ror2の発現は正常な脳内のアストロサイトではほとんど発現しておらず必要に応じて誘導されると考えられるが、アストロサイト由来の悪性腫瘍であるアストロサイトーマにおいてはRor2の発現亢進が認められ、Ror2の発現量が高いほどNrf2の活性が高く、予後不良であることを見出した。さらに、アストロサイトーマU251細胞においては恒常的にNrf2が核内に蓄積しており、Ror2の発現をsiRNAにより抑制することによりNrf2の核内蓄積が減少し、増殖能が低下することが明らかになった。これらの結果から、Ror2の発現誘導機構の破綻はがんの悪性化に寄与することが示唆された。
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