本研究の目的は、小脳平行線維-プルキンエ細胞シナプスの形成および維持において極めて重要な作用をするCbln1が、デルタ型グルタミン酸受容体(GluD2)に結合することによってシナプス後部にいかなる変化を誘導し、シナプス後部を成熟させLTDを可能とするかについての分子機構を、免疫染色法およびライブイメージング法などで明らかにすることである。これまでにCbln1が結合することでGluD2のスパイン上での局在が変化する実験結果を得ている。2020年度はGluD2およびスパインの動態を野生型および変異を入れたCbln1を添加することで、より詳細な解析を試みた。Cbln1-KOマウス由来のプルキンエ細胞に、いくつかのCbln1タンパク質を添加し4日後に細胞を固定し、カルビンジン、シナプトフィジン抗体で染色し、コンフォーカル顕微鏡で観察した。その結果、6量体を形成できずニューレキシンに結合できない変異型Cbln1、およびGluD2に結合できない変異型Cbln1を添加した場合ではGluD2の局在変化はみられなかった。これらの結果から、ニューレキシンとGluD2の両方に結合することでGluD2の局在変化が起こることが推察された。また、昨年度の報告書で緑と赤色、それぞれのpH依存性蛍光タンパク質を用いてgreen-GluA2およびred-GluD2を作製し、プルキンエ細胞に発現させ、LTD刺激によるgreen-GluA2の輝度の低下の確認を報告したが、2020年度はさらにTPA処理、またはD-セリン処理によるLTD時にgreen-GluA2の輝度の低下が観察されるかを検討した。その結果、TPA処理によるLTD時にはgreen-GluA2の輝度の低下が確認できたが、D-セリン処理によるLTD時にはこれまでに確認できておらず、さらなる検討を行う必要がある。
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