局所翻訳は、神経細胞に特徴的な翻訳制御機構であり、長期記憶の成立に必要なタンパク質の新規合成において重要な働きを担う。しかしながら、記憶形成の細胞基盤であるシナプスの可塑的変化において、局所翻訳産物がシナプス後部へと迅速かつ効率的に供給される機構については十分に理解されていない。局所翻訳産物には膜タンパク質が含まれるため、分泌経路に関する細胞内小器官がシナプス刺激によって再編成されるのではないかと仮説を立てた。また、これら細胞内小器官の動態は微小管によって制御されるという報告があったため、微小管動態の制御がシナプスの可塑的変化に関与する可能性について神経初代培養を用いて検討した。 分泌経路に関与する細胞内小器官(小胞体や小胞体-ゴルジ中間区画)を可視化し、ケージ化グルタミン酸を用いて単一シナプスを刺激し、シナプスの可塑的変化における動態を観察した。その結果、これら細胞内小器官が刺激を受けたシナプス近傍に集積するという観察結果を得た。さらに、シナプスの可塑的変化に対する微小管動態の関与を検討した。微小管の重合阻害剤処理によって、シナプス後部の拡張が観察された。一方、微小管の脱重合阻害剤処理は、シナプスの可塑的変化を抑制した。これらの結果より、シナプスの可塑的変化において、細胞内小器官の刺激を受けたシナプス近傍への集積や、微小管動態の関与を見出した。シナプスの可塑的変化は、記憶・学習のみならず、脳梗塞からの回復期における神経回路の再編成にも関与しうる。そこで、現在、上記の神経初代培養によって得られた結果について、脳梗塞からの回復におけるシナプスの可塑的変化に関与するか検討を進めている。
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