研究実績の概要 |
多発性硬化症などの中枢性脱髄疾患では、神経軸索を覆うミエリンが破壊され、運動、感覚、認知機能の障害を引き起こす。これらの疾患において、グリア細胞の活性化が脱髄進行促進因子として重要な役割を果たす。つまり、グリア細胞の活性化を抑制するが脱髄疾患に対する予防及び治療法の開発のカギとなる。 私たちは、脱髄疾患モデル動物においてCD38という遺伝子が欠損すると、脳内のNAD+が顕著に増加し、グリア細胞の活性化が抑制され、脱髄が軽減されることを見出した。NAD+のグリア細胞に対する効果を明らかにする為に、中枢神経特異的に神経炎症を起こすモデル動物を用いて、NAD+の効果を検討した。脳においてNAD+を増加させる効果を持つNR及びアピゲニンを投与すると、神経炎症モデルにおけるグリア細胞の活性化は抑制され、神経炎症の程度を示すサイトカインの産生も抑制されていた。さらに、炎症による神経障害も軽減されていた。 NAD+を増加させる効果を持つNR、アピゲニン、78cは培養グリア細胞においてもその活性化を抑制し、細胞内活性化シグナルであるNF-kBシグナルを介していることが見出された。 上記結果より、NAD+はグリア細胞活性化抑制効果を持ち、それにより神経炎症とその後の神経障害及び脱髄も軽減する効果を持つことが明らかとなった。今後は、経口投与によるNR,アピゲニンの効果の確認、EAEモデルなど他の脱髄疾患におけるこれらの化合物の効果を検討することにより、脱髄疾患の予防、治療に応用することが可能になると考える。
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