研究課題/領域番号 |
18K06503
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
萬代 研二 北里大学, 医学部, 教授 (50322186)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 軸索ガイダンス / 神経回路 / 細胞間接着 / リンクス |
研究実績の概要 |
神経回路の形成には、軸索がガイドされて標的の樹状突起に投射し、シナプスを形成することが重要である。これらの過程の破綻は種々の精神・神経疾患の原因となりえる。しかし、神経回路の形成機構の全貌は解明されていない。研究代表者らはこれまでの研究によって新規の軸索ガイダンス分子で膜貫通タンパク質のリンクスを見出し、この分子が受容体型チロシンキナーゼの機能を調節して末梢神経の神経回路の形成を制御すること、また、軸索間で接着依存性に軸索をガイドして内包の形成を制御することを明らかにしてきた。本研究では、リンクス遺伝子欠損マウスLinx(tEGFP/tEGFP)において、これまでにそのガイダンス機構が解明されていないある特定の軸索の投射がほぼ完全に欠損していることを見出している。発生期のマウス脳では、リンクスはこの軸索が通過する脳の領域に発現していたが、軸索投射を形成する神経細胞には発現していなかった。したがって、内包の形成の機構と同様に、この軸索の投射の形成においても、リンクスが細胞接着分子依存性の軸索ガイダンス分子として作用して軸索の伸長とガイダンスを制御していると考えられた。したがって、細胞間でリンクスにトランスに結合する細胞接着分子の同定とその機能と作用機構を解析することによって、本研究で見出した、リンクスが関与している軸索の投射、および内包の形成機構の詳細が解明される可能性がある。このような分子の同定に向けて生化学的実験も行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度はリンクス遺伝子リポーターマウスLinx(+/tEGFP)とリンクス遺伝子欠損マウスLinx(tEGFP/tEGFP)を用いて、上述した軸索投射とリンクス発現組織との空間的関係、ならびにリンクスの発現との時間的関係を解析し、この軸索投射の形成におけるリンクスの機能と作用機構の概要の解明を試みた。これらの解析によってリンクスによる軸索ガイダンスの分子機構の解明に向けた基礎データを得ることができた。また、神経細胞死が根本的な原因で軸索投射の形成が障害されている可能性を否定することができた。リンクスにトランスに結合する細胞接着分子の同定の実験については種々の条件検討を進めている。この課題は来年度に引き続いて実施する。このように平成30年度の当初の目標は概ね達成した。一方、神経回路形成におけるリンクスの機能の解析を行う過程で、自律神経の神経回路の形成にもリンクスが関与していることがわかり、本来の計画に追加してこちらの解析も並行して行いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、前年度の研究を発展させリンクスにトランスに結合する細胞接着分子の同定に取り組み、見出された分子とリンクスとの結合について、生化学的および細胞生物学的手法による解析を行う。また、同定されたリンクス結合分子とリンクスの、発生期の脳における発現の時空間的関係を明らかにする。これらの解析によってリンクス欠損マウスの表現型を説明しうる真のリンクス結合分子の候補と判断できれば、生体内において本分子の機能を解析するため、遺伝子欠損マウスの作成に取り掛かる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に予定していた結合タンパク質同定のための分析を、より正確性を期すために次年度に行うことにした。また、マウスの飼育、細胞培養実験関連の消耗品、組織染色用の抗体や蛍光2次抗体、分子生物学実験に必要なキットの購入に必要な費用を節約することができた。令和元年度はこれらの支出が平成30年度以上に増える見込みである。
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