研究課題
小児の2%にも及ぶ神経発達障害は、現代社会において多くの問題を引き起こしている。神経発達障害には、小頭症や大頭症のほか、知的障害や注意欠陥多動性障害、自閉症などの様々な症状がみられ、多くの患者で複数の症状が混在してみられる。これまでの研究によって、神経発達障害の症状のうち、知的障害や自閉症などに対する研究成果は多数報告され、治療法の確立へ向けて進展している。しかし、小頭症や大頭症など脳の大きさに異常をきたす症状への治療法は全く無く、その病態も未解明な部分が多い。神経発達障害の原因遺伝子として、現在までに多くの遺伝子が同定されているが、そのうちの一つとしてKdm5c / Jarid1c が知られている。Kdm5c 遺伝子変異によって知的障害を伴う脳の大きさの異常が引き起こされるが、興味深いことに小頭症と大頭症の両方の患者が報告されている。そこで、Kdm5c 遺伝子変異による脳の大きさの異常を分子レベル、細胞レベル、個体(マウス)レベルで解析し、その病態メカニズムを解明することを目的として、本研究課題を実施している。これまでに、私たちの研究グループは新たにKdm5cノックアウトマウス(エクソン11欠損マウス)を作出し、様々な行動解析等を行った。その結果として、Kdm5cノックアウトマウス(エクソン11欠損マウス)は知的障害、過剰な攻撃行動、運動学習障害や小頭症を呈することが明らかとなった。さらに、そのマウスの脳組織を用いたRNA-seqも実施し解析を行ったところ、小頭症を呈するKdm5cノックアウトマウス(エクソン11欠損マウス)の脳では、神経細胞の分化に関与する遺伝子群の発現増加がみられることがわかった。また、神経幹細胞の増殖や分化を調節している新たなKdm5c結合蛋白質も同定した。
2: おおむね順調に進展している
2018年度には研究代表者の移動に伴う研究の遅れが生じたが、2019年度は、おおむね順調に進み、小頭症の病態メカニズムを解析することが出来た。ただし、当初の研究計画の段階で想定はしていたが、大頭症のモデル作製には未だ成功していない。
本年度は、2019年度に得られた小頭症の病態メカニズムに関する結果を、さらに解析を進めて、論文投稿を行う。また、これまで成功していない大頭症モデルの作製を引き続き実施していく予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
Neuropharmacology
巻: 162 ページ: 107835~107835
https://doi.org/10.1016/j.neuropharm.2019.107835
Neurochemistry International
巻: 131 ページ: 104563~104563
https://doi.org/10.1016/j.neuint.2019.104563