消化管の発達した神経システムは全身の恒常性の維持に貢献しており、その破綻は消化管疾患のみならず動脈硬化や糖尿病・認知症等の様々な病態に関与していることが示唆されている。特に中枢神経病態と消化管との両方向性の相互作用、いわゆる脳腸相関が近年注目されている。しかしながら脳疾患や老化に伴うヒトEGCの動態については殆どわかっていない。本研究では、EGCが疾患特異的な形態と役割を有しているという仮説の検証を目的に、申請者がこれまでに得ている知見をもとにヒトEGCの変化についての詳細な解析を行う。同時に、疾患モデルを用いた検証と相関させることで、病態下におけるEGCの動態とその診断・治療等への応用の可能性を探索することを目的とする。 2023年度には、前年度までの解析を3次元培養システムを用いてさらに進めるとともに、ヒト消化管病理検体の解析数を増やし有意な変化の抽出を同定した。研究期間全体を通じた検討結果から、異なる年齢・部位におけるヒト消化管EGCの分布を明らかとし、ヒト大腸癌前駆病変ではEGCを含む粘膜内神経システムが病変特異的な変化をきたしていることを見出した。In vitro系を用いた検討から、この粘膜内神経システムの変化は腫瘍細胞の細胞内シグナル伝達路に影響を与え、腫瘍特異的な形質発現に関与していることが示唆された。本研究で得られた知見は、大腸癌進展における神経システムの役割に光をあて、新たな治療標的の創出につながるものと考える。
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