研究課題/領域番号 |
18K06507
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
渡部 和彦 杏林大学, 保健学部, 教授 (30240477)
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研究分担者 |
村田 麻喜子 杏林大学, 保健学部, 講師 (00276205)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 運動ニューロン / TDP-43 / 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) / 蛋白質凝集体 / 組換えウイルス / Praja1 (PJA1) / 熱ショック応答 / HSF1 |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンの選択的な変性脱落により死に至る最も過酷な神経変性疾患であり,ニューロン,グリアにリン酸化TDP-43蛋白を含む細胞質凝集体が出現する.我々はこれまで,ヒト正常TDP-43とそのC末断片を発現する組換えアデノウイルスをプロテアソーム阻害条件下で培養ニューロンや成体ラット・マウス運動ニューロンに感染発現させると,リン酸化TDP-43を含む不溶性の細胞質粗大凝集体が高率に形成されることを報告した.一方,この細胞質TDP-43凝集体形成はheat shock transcription factor 1 (HSF1)発現ウイルスの共感染により顕著に抑制されることを見出した.そこでDNAマイクロアレイ解析によりHSF1の下流分子を探索し,Praja 1 (PJA1) E3ユビキチンリガーゼなど複数の分子にTDP-43凝集体形成抑制効果を認めた.本研究では,これら新規TDP-43凝集体形成抑制分子を培養細胞,マウスモデルを用いて詳細に解析するとともに,ヒトALS剖検例と比較検討することにより,ALSに対する新規治療法の開発を目指している. 本年度は,PJA1と,これまでTDP-43凝集を抑制することが報告されているZNF179 E3ユビキチンリガーゼのTDP-43凝集抑制効果を比較検討した.その結果,PJA1とZNF179はともにTDP-43に結合しユビキチンリガーゼとして機能するが,PJA1とは異なりZNF179には上述した実験モデルにおけるTDP-43凝集体形成抑制効果を認めず,細胞やE2ユビキチン結合酵素の種類などによって各々の機能発現が異なり,今後の詳細な比較検討が必要であると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
1.ヒト正常および変異TDP-43またはC末断片TDP-43およびHSF1を発現する組換えアデノウイルスをプロテアソーム阻害条件下でラット神経幹細胞1464R由来分化ニューロンに感染させたところ,HSF1組換えウイルスの共感染によりTDP-43凝集体形成が顕著に抑制されることを見出した. 2.上記培養凝集体モデルについてcDNA マイクロアレイ解析を行ったところHSF1により2倍以上に発現が上昇する遺伝子は64個,HSF1による凝集体形成抑制に伴って2倍以上に発現が上昇する遺伝子は393個同定された.このうちPJA1にTDP-43凝集体形成抑制効果を見出し,PJA1がTDP-43の主にC末断片に結合してユビキチン化し,またUBE2E3がE2結合酵素として働くことが示唆された. 3.ラット神経幹細胞由来ニューロン培養およびマウス顔面神経核運動ニューロン組換えアデノウイルス接種によるTDP-43凝集体形成モデルにおいて,PJA1, ZNF179ユビキチンリガーゼはともにTDP-43に結合し, PJA1は凝集体形成を顕著に抑制したが,ZNF179には効果を認めなかった.PJA1とZNF179はともにTDP-43に結合しユビキチンリガーゼとして機能すると考えられるが,細胞やE2ユビキチン結合酵素の種類などによって機能発現が異なると考えられた. 4.一方,その他のTDP-43凝集体抑制候補分子の網羅的な解析と絞り込みに時間を費やしており,当初予定していた動物実験の遂行にも遅れが生じている.
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今後の研究の推進方策 |
引き続きcDNA マイクロアレイ解析により得られた分子についての発現および機能解析を行い,TDP-43凝集体抑制候補分子の組換えウイルスを作製し,培養ニューロンでの効果を確認するとともに,2〜3ヶ月齢ICRマウスの顔面神経にこれら組換えウイルスをTDP-43組換えウイルスとともに注入接種する.接種3日後より2週間まで経時的に灌流固定し脳幹の凍結またはパラフィン連続組織切片を作成,組換えウイルスの軸索内逆行輸送による運動ニューロンでの導入遺伝子の発現および凝集体形成を蛍光で確認するとともに免疫染色,ウェスタンブロットで解析し.成体マウス運動ニューロンに対して凝集体形成抑制効果を有する分子を確定する.一方,上記マウスモデルがヒトALS運動ニューロン病変を忠実に反映しているか否かを検討するには,ヒト剖検例との形態学的(免疫染色,電顕・免疫電顕)・生化学的(ウェスタンブロット)な比較解析が必須である.ヒトALS剖検脳・脊髄組織より上記に関するデータを可能な限り収集・解析し,上記細胞・動物モデルと比較検討することにより,凝集体形成抑制によるALSの新規治療法の開発を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)TDP-43凝集体抑制候補分子の網羅的な解析と絞り込みに時間を費やし,当初予定していた動物実験の遂行にも遅れが生じており,組換えウイルス作製完了に伴う培養細胞実験および動物実験を次年度以降に行う必要がある. (使用計画)次年度使用額・総計694千円の内訳:1.培養細胞実験および動物実験に必要な消耗品費(514千円)(実験動物として3-4ヶ月齢ICRマウス100匹の購入に計90千円.実験試薬および抗体購入費として計300千円.器具消耗品費として培養基材,チューブ,ピペットなどに計124千円を計上).2.実験研究補助の謝金(180千円).
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