内側視索前野は生得的な社会行動の中枢領域であり、様々な性的二型があることがこれまでの研究で明らかになっている。分子マーカーを用いてその分布の性差について調べると共に、様々なCreドライバーマウスを用いてその機能解明に取り組んだ。 調べた4つの分子マーカーを発現する細胞の中で、2つは明らかに雄の性行動に対する関連が示唆された。オスの性行動においてこの2つの遺伝子を発現する細胞は神経活動マーカーであるc-Fosを発現していた。中でも細胞数の多い1つの遺伝子のCreマウスを用いた検討では、DREADDシステムを用いた人為的な神経活動の上昇によって性行動の亢進が見られ、射精までの時間の短縮が観察された一方で、同様に人為的に神経活動を抑制した場合には性行動が抑制される結果となった。また、別の遺伝子のCreマウスの検討では、同様に神経活動を上昇させた場合に明らかに性行動の抑制が起こった。 また、遺伝子発現の分布の性差を調べるにあたり、新たなin situ hybridization法の開発にも取り組み、簡便で高感度、低ノイズなin situ hybridization法を完成させた。このシステムではこれまでのin situ hybridization法で必要であったProK処理や後固定、アセチル化などの作業は全て不要であり、また複数の遺伝子を同時に検出できるという汎用性の高さと、mRNA1コピーから検出が可能な解像度と検出感度を兼ね備えたものだった。さらに、ProK処理を行わないことや、低温での反応が可能になったために組織へのダメージが少なく、その他のタンパク質等の検出もこれまで以上に簡便に行えるようになった。
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