生体内のアストロサイトは多数の細かい突起を有し、その突起を介してシナプスの構造や機能に重要な役割を果たしているが、アストロサイト突起とシナプスとの接着については生体内に近い形態を示すアストロサイトの培養法が確立されていなかったため、ほとんど解明されていない。研究代表者は、生体内で観察される多数の細かい突起を持ったアストロサイトと神経細胞の共培養系を新たに開発し、本研究ではこのアストロサイト-神経細胞共培養系を用いてアストロサイトのシナプス形成・維持における役割と作用機構を明らかにすることを目的にしている。令和2年度は、前年度までに同定した、アストロサイト突起と興奮性シナプスの接着部位に局在する細胞間接着分子が、アストロサイト突起と興奮性シナプスの接着部位でトランスに結合し、アストロサイトの機能分子を集積させることによって、アストロサイトの形態形成に影響を及ぼすことなく、アストロサイトの極性形成を制御していることを明らかにした。このトランス結合が神経細胞のグルタミン酸放出部位を増加させたことから、これらの分子が三者間シナプスの形成に協調的に作用していることも明らかにした。さらに、これらの分子を欠損させたマウスを用いたin vivoの解析で、アストロサイト突起と興奮性シナプスの接着と、アストロサイトの極性形成が、海馬苔状線維シナプスの形成に重要であることを明らかにした。また、このアストロサイト-神経細胞共培養系を用いて、抑制性シナプスにおけるアストロサイト突起とシナプスの接着部位に局在する細胞間接着分子を同定した。 したがって、本研究課題において研究代表者は、当初の目的以上の成果を達成した。
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