本研究では高速ネットワーク律動の発振の細胞メカニズムを検討する。とくに遠位軸索での異所性バースト発火の発振に関与する可能性について、申請者らが開発した軸索サブセルラー記録、ケージ解除による光操作や、数理モデルを用いたシミュレーションなどの多角的な電気生理学的アプローチを駆使して追及する。本年度は、昨年度までの研究で得られた遠位軸索へのカリウムチャンネル阻害剤4-Aminopyridine (4-AP)の局所投与およびケージド化合物Rubi-4-APの光分解による海馬苔状線維軸索の発振が、生理的な活動電位発生部位である苔状線維の近位軸索ではなく、遠位軸索でのカリウムチャンネル阻害が異所性バーストを引き起こす可能性を追及し、また、遠位軸索でのバースト発火と細胞体である顆粒細胞の発火の関係について明らかにするために、細胞体の存在する歯状回と軸索の走行するCA3野を切断して検討を進めた。歯状回を分離した標本では軸索終末から記録される低頻度の自発発火はほぼ消失し、CA3野の遠位軸索部に4APを局所投与してもバースト発火は発生しなかった。これらの結果から、4APの局所投与により生じるバースト発火はCA3野の遠位軸索から異所性に発振するが、その発生には歯状回からの順行性活動電位の伝播が必要であり、遠位軸索の限局的な興奮性上昇がネットワークレベルでの発振を生じるメカニズムの詳細についてはさらなる検討が必要と考えられた。
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