研究実績の概要 |
関西医科大学の小早川博士らは、マウスに強烈な恐怖反応を引き起こす匂い物質である2-methyl-2-thiazoline(2MT)を同定している(Isosaka et al., 2015, Cell)。興味深いことに、小早川博士らは、この恐怖刺激(恐怖刺激臭)である2MTはその曝露により、マウスの急激な体温低下を引き起こすことを見出していた。しかし、この恐怖刺激による急激な体温低下が引き起こされる神経メカニズムは明らかにされていない。我々はまず、2MT曝露による低体温誘発を確認するために、体表および体内の体温変化を測定した。その結果、体表、体内の温度共に、2MT曝露のよって急激に低下することを確認した。興味深いことに、尾の周辺の体表の温度は、低下ではなく、一時的に上昇することを見出した。このことは、2MT曝露による低体温の誘発は、尾の周辺の血管拡張に伴う放熱反応によって引き起こされている可能性が示唆された。また、同様の2MT曝露による体温変化の測定を、我々が以前発見した2MTに対して恐怖反応を示さないTrpa1ノックアウトマウス(Trpa1-KO)(Wang et al., 2018, Nature Communications)を用いて行った。その結果、Trpa1-KOでは2MT曝露による低体温の誘発および尾の周辺の温度上昇(放熱反応)は観察されなかった。2MTによる急激な体温低下が引き起こされる神経メカニズムにを明らかにするために、2MT曝露によって活動する神経細胞の全脳Fosマッピング、それらの神経細胞の標識、神経活動の操作を行った。その結果、傍小脳脚核(PBel)-視床下核(PSTh)-孤束核(NTS)という新規の神経経路が活動することによって2MTによる急激な体温低下が引き起こされることが明らかとなった。
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