研究課題
空間識の形成にとって重要な視覚情報である立体感覚は、高等動物で発達したものである。眼が顔の側面に存在する下等動物は両眼視をすることができない。高等動物では眼が顔の正面に位置するようになると同時に、両眼の視線が一点で交わるための輻輳性眼球運動(両眼の内転または外転)が可能になり、左右の眼の網膜に映る外界の像のずれ(両眼視差)により奥行き知覚、立体視が可能となった。本研究は、これまで行ってきた輻輳性眼球運動の神経機構の解析をさらに進め、立体視の神経機構の解明に寄与することを目的とする。これまでに我々は輻輳性眼球運動の神経機構を解析し、ネコにおいて、従来、急速眼球運動の中枢とされてきた上丘の頭側部が、輻輳性眼球運動にも関与することを明らかにした。上丘頭側部には固視細胞が存在し、脳幹のポーズ細胞を介して共同性サッケードを抑制する回路を明らかにしたが、輻輳性眼球運動の中枢も上丘頭側部のほぼ同様の部位に存在することが明らかとなった。そしてそこから内直筋運動細胞に至る経路が存在し、その一部は動眼神経核の背側部の中心灰白質内を介していることを明らかとした。その過程において、上記の中心灰白質内の領域と隣接する、中脳網様体内にも内直筋に投射する核上性ニューロンが存在することが明らかとなった。サルでは中脳網様体内に水平性サッケードに関与する細胞があることが知られているが、この領域が輻輳性眼球運動にも関与するのであれば、眼前距離の異なる2点間を視線が移動する際の、サッケードと輻輳の相互作用の場である可能性が考えられる。そこで本研究では、この領域への入力系を明らかにするため、中脳網様体に神経標識物質を注入し、逆行性に標識される細胞の分布を解析した。中脳網様体は眼球運動に関係する多くの構造物に近接しており、結果の解釈が難しいが、検討の結果、上丘の輻輳関連領域からの投射の存在が示唆される結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
これまで解明されていなかった輻輳性眼球運動の神経回路の解明が進んでいるため。
輻輳性眼球運動の出力経路を明らかにするため、ネコにおいて、解剖学的および電気生理学的に中脳網様体の入出力関係を解析する。次にネコにおけると同様の神経機構がサルでも存在するかを検証する。
ほとんど予定額を使用したがわずかに端数が生じた。これについては、次年度の消耗品の購入に充当する予定である。
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Progress in Brain Research
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