1、頭頂連合野を注意干渉関連領域と同定し、その機能を痛覚への影響という観点から解析した。頭頂連合野を電気刺激等により賦活しても、体性感覚野の痛覚応答に対して抑圧が働かない場合がある事を見出したが、逆に頭頂連合野の機能を損傷した場合での応答の変化を調べた。深麻酔したマウスの後肢に設置した電極より、250 Hzサイン波の電気刺激をおこない、Aδ繊維を活性化して一次痛覚を誘起させ、体性感覚野・後肢相当部位の応答をフラビンイメージングによって計測した。その後、頭頂連合野と体性感覚野・後肢相当部位の間の大脳皮質に眼科用メスにより切れ目を入れ、両領野間の連絡を遮断した。続けて、同じ250 Hzサイン波の電気刺激をおこなったところ、切断5-10分後には76%の応答増強が観察された。この増強は素早く消失し、次の5分後には元の応答の56%まで減衰した。この結果は、頭頂連合野が定常的に体性感覚野の痛覚応答を抑制していることを示すとともに、興奮/抑制のバランスが大きく変動した際には皮質応答を早期にバランスさせる機構が存在するらしいことを示唆している。 2、前頭連合野も注意干渉関連領域である可能性を検証するため、痛覚応答との関係を解析した。頭頂連合野での実験と同様に、体性感覚野・後肢相当部位の痛覚応答を記録した後、前頭連合野と体性感覚野の間の連絡路と思われる内側の大脳皮質に眼科用メスにより深く切れ目を入れ、両領野間の連絡を遮断、続けて250 Hzサイン波の電気刺激に対する応答を計測した。切断5-15分後には22%の応答増強が観察された。この増強は持続し、切断30-40分後にも18の増強が見られた。この結果は、前頭連合野も頭頂連合野と同じく、定常的に体性感覚野の痛覚応答を抑制していることを示している一方、興奮/抑制のバランス回復については頭頂連合野と性質が異なる機構を有している示唆している。
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