研究課題
哺乳類における空間認知・ナビゲーションシステムは脳内の海馬体と嗅内皮質を中心領域として、場所細胞、格子細胞、頭部方向細胞を組み入れた神経回路網によって成り立っている。頭部方向細胞は、動物の頭部が特定の方位に振れたときに活動を高める細胞で、場所細胞と格子細胞が作り出す脳内地図に対し、方位を指し示す脳内コンパスの機能を果たすと考えられている。先行研究により、頭部方向情報は背側被蓋核(DTN)→外側乳頭体(LMN)→視床前背側核の一連の回路網で処理されることが示唆されている。本研究は、各階層における神経細胞及び核内・核間のシナプス接続について電気生理学的・薬理学的・形態学的性質を明らかにし、この回路網の情報処理過程を明らかにすることを目的としている。前年度までにDTNのGABA作動性神経細胞は、改変型狂犬病ウイルスを用いた逆行性トレース法により、結節乳頭核のヒスタミン神経とシナプス接続する細胞と、接続しない細胞に分類されることを示した。脳スライス標本において電気生理学的解析を行ったところ、前者は入力電流量の増加に比例して活動電位の発火頻度を上昇させる特性を持ち、後者は常時高頻度で自励発火する特性を持つ、異なった性質の細胞であることが分かった。次にDTN細胞にシナプス入力する細胞を探索するため、GAD1-Creマウスにおいて、DTN細胞に投射先の外側乳頭体から逆行性にCre依存性Flp発現CAVベクターを取り込ませ、Cre+Flp依存的な逆行性トレース標識(cTRIO法)を行った。しかしながら、ヒスタミン細胞に接続しないDTN細胞も乳頭体へ投射する細胞であることが示唆され、この手法では2種類のDTN細胞それぞれに特異的な入力細胞を分別することができなかった。
3: やや遅れている
ヒスタミン神経に投射するDTN細胞に対しシナプス入力を形成する神経細胞を明らかにする予定であったが、DTN細胞には外側乳頭体へ投射する別の細胞が存在することが示唆され、これらを分離するために解析方法を見直す必要が生じた。
引き続きDTN細胞の解析に注力する。2種類のDTN細胞について電気生理学的実験を行い、発現する電位依存性チャネルやセロトニン、ノルアドレナリンなどの神経修飾物質に対する作用を比較する。また、DTN細胞を分類でき、細胞特異的な遺伝子操作の標的となりうるマーカータンパク質を探索する。有効なマーカーが得られれば、再度分子遺伝学的なトレース法を行いDTN細胞の入出力回路を解析する。また光遺伝学的手法を用い、DTN細胞の神経活動を人為的に操作し、動物の行動に現れる影響を観察して、DTN細胞の生理機能を解析する。
参加を予定していた学会が集会中止となり旅費が削減されたため。また、当該年度に予定していた光遺伝学的実験に時間を当てることができず、実験に必要な物品の購入を見送ったため。(使用計画)自由行動下における光遺伝学的実験に使用するLED照明、光学素子、光ファイバーの購入費にあてる。
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Addiction Biology
巻: 25 ページ: e12723
10.1111/adb.12723
Communications Biology
巻: 2 ページ: 373
10.1038/s42003-019-0622-0