研究課題
薬物依存患者ではストレスにより、一旦止めた依存性薬物を再摂取してしまう再燃が重大な問題となる。よって、ストレスによる行動変容の神経機構を解明することは極めて重要である。本研究では、研究代表者が独自に確立した、急性ストレス負荷とコカイン条件付け場所嗜好性試験の組み合わせによる薬物欲求行動増大モデルに、電気生理学、行動薬理学、薬理遺伝学の融合的研究手法を駆使して、ストレスによる行動変容の神経機構を、特に内側前頭前野(mPFC)でのノルアドレナリン(NA)神経伝達に着目して明らかにすることを目的とする。具体的にはmPFC神経細胞レベルでのNAの作用、拘束および社会敗北ストレスによる薬物欲求行動増強におけるNAの役割、mPFC細胞種選択的活動抑制がストレスによる薬物欲求増強に与える影響を明らかにする。本年度は、mPFC V層錐体細胞に対するNAの作用を脳スライスにホールセルパッチクランプ法を適用することで検討した。その結果、NAはmPFC V層錐体細胞を脱分極させるとともに、興奮性シナプス伝達を増大させることが明らかとなった。また、薬理学的解析からこれらのNAによる作用はα1受容体を介して誘導されること、さらに、TTX存在下で観察される活動電位非依存性のシナプス伝達にはNAは影響を与えなかったことから、NAによる興奮性シナプス伝達増大作用は、プレシナプスではなくポストシナプスを介した応答であることも明らかとなった。これらのNAによるmPFC錐体細胞の興奮性増大作用がストレスによる薬物欲求増強に関与する可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
研究実施計画に記載した計画通りに進んでいるため。
H30年度の結果から、NAによるmPFC神経細胞活動の上昇にはα1受容体を介した神経伝達が重要であることが明らかとなったことから、インビボでのコカイン条件付け場所嗜好性試験におけるストレスによる場所嗜好性の増大に、mPFCでのα1受容体を介した神経伝達が関与するのかどうかを薬物の局所投与により詳細に検討していく。また、社会敗北ストレスによっても場所嗜好性の増大が認められるのか否かを検討する。
購入予定の試薬の価格が上昇し、当該助成金では購入出来なかったため、翌年度分として請求した助成金とあわせて購入することとする。
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Addiction Biology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1111/adb.12723
Psychopharmacology
10.1007/s00213-019-05222-2
European Journal of Neuroscience
10.1111/ejn.13962
巻: 235 ページ: 2367~2376
10.1007/s00213-018-4933-5
http://www.p.kanazawa-u.ac.jp/~yakuri/