研究課題
薬物依存患者ではストレスにより、一旦止めた依存性薬物を再摂取してしまう再燃が重大な問題となる。よって、ストレスによる行動変容の神経機構を解明することは極めて重要である。本研究では、独自に確立した、急性ストレス負荷とコカイン条件付け場所嗜好性(CPP)試験の組み合わせによる薬物欲求行動増大モデルに、電気生理学、行動薬理学、薬理遺伝学の融合的研究手法を駆使して、ストレスによる薬物欲求増大の神経機構を、特に内側前頭前野(mPFC)に着目して明らかにすることを目的としている。昨年度までに、CPP試験のポストテスト直前に急性拘束ストレスあるいは社会敗北(SD)ストレスを負荷することによって薬物欲求増大が誘導されること、SDストレスによる増大にもmPFCのノルアドレナリン(NA) α1受容体が重要な役割を果たすことを見出したので、今年度はmPFC神経活動の上昇がSDストレス負荷による薬物欲求増大に関与するのかをDREADD法を用いて検討した。その結果、急性拘束ストレス同様、SDストレスによる薬物欲求増大にもmPFC錐体細胞の活性化が重要であることが明らかとなった。また、急性拘束あるいはSDストレスによる薬物欲求の増大がどれくらいの時間持続するのかを調べたところ、ストレス負荷15分後にポストテストを行うと、ストレス直後と同様にCPPスコアの有意な上昇が認められたが、負荷30分後のポストテストでは認められないことが分かった。さらに、SDストレス負荷による薬物欲求増大にはmPFCでのドパミンD1受容体を介した神経伝達も関与することが明らかとなった。以上より、身体的ストレスに加え、精神的・心理的ストレスによっても薬物欲求が増大することが証明され、この増大にNAおよびドパミン神経伝達が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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