研究課題/領域番号 |
18K06523
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
畠 義郎 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40212146)
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研究分担者 |
亀山 克朗 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80446517)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大脳皮質視覚野 / 眼優位可塑性 / 内因性カンナビノイド / 臨界期 / 抑制神経回路 |
研究実績の概要 |
脳は生後初期の臨界期に様々な機能を獲得する。哺乳類の視覚系では、臨界期の開始に抑制性神経回路の成熟が関わるが、そのタイミング調節メカニズムはいまだ不明な点が多い。これまでの研究で内因性カンナビノイドの合成酵素diacylglycerol lipase(DGL)αの欠損動物では、大脳皮質視覚野の代表的な可塑性である眼優位可塑性の臨界期のタイミングが早くなっていることを報告している。さらにDGL-α欠損動物の視覚野の機能発達について検討し、それぞれの眼からの入力への反応選択性が統合されるBinocular matchingという過程が未熟なままであることを見出した。内因性カンナビノイドは抑制性シナプス伝達の調節因子であることから、それが視覚系での抑制性神経回路の成熟に関与することで臨界期調節因子として機能しているかを検証するため、視覚野の抑制性神経回路発達を形態的、生理学的に調べている。形態的には、抑制性ニューロン、特に臨界期の開始と関わるparvalbumin発現細胞の成熟を示す種々の分子マーカー(GABA合成酵素、parvalbumin、ホメオタンパク質OTX2、細胞外構造perineuronal netなど)の発現を、免疫組織化学的に評価している。またホールセル記録による抑制性回路の機能解析を進行中である。さらに抑制性神経回路の機能を操作することでDGL-α欠損動物の臨界期のタイミングを正常に戻すことができるかを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では内因性カンナビノイドの臨界期調節因子としての役割を明らかにするため、DGL-α欠損動物において「内因性カンナビノイドの量を操作することで臨界期タイミングは影響を受けるか」「視覚野の抑制性神経回路の発達に変化はあるか」「視覚野の抑制機能を操作することで臨界期タイミングを正常に戻せるか」を明らかにする。まずDGL-α欠損動物に内因性カンナビノイド作動薬を投与することで、臨界期のタイミングを正常に戻すことができることを見出した。このことは内因性カンナビノイドの量により臨界期タイミングを早めたり遅らせたりできることを示唆している。次に抑制性神経回路の発達については、まず抑制性ニューロン、特に臨界期の開始と関わるparvalbumin発現細胞の成熟を示す種々の分子マーカー(GABA合成酵素、parvalbumin、ホメオタンパク質OTX2、細胞外構造perineuronal netなど)の発現を、免疫組織化学的に評価している。これまでに各種マーカーを検出するための条件検討を行い染色プロトコルをほぼ確立し、DGL-α欠損動物と野生型の比較を開始しているが、これまでのところ両者に明瞭な差異は認めていない。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に述べたように、本課題では内因性カンナビノイドの臨界期調節因子としての役割を明らかにするためDGL-α欠損動物において「内因性カンナビノイドの量を操作することで臨界期タイミングは影響を受けるか」「視覚野の抑制性神経回路の発達に変化はあるか」「視覚野の抑制機能を操作することで臨界期タイミングを正常に戻せるか」を検討している。「内因性カンナビノイドの量を操作」については結論が出ており、今年度は残り2点に集中する。 抑制性神経回路の発達については免疫組織化学染色による抑制性神経細胞マーカーの評価を行っているが、これまでのところDGL-α欠損動物に明瞭な変化は認めていない。そこで形態的評価に加えて抑制性神経伝達の機能評価を準備中である。当初の計画では入力刺激で視覚野に誘発される集合電位のうち抑制性成分を反映すると思われる成分を指標として実験を行う予定であった。しかし抑制性シナプスの機能をより精密に評価できるホールセル記録が可能となったため、単一の視覚野細胞で抑制性シナプス電流を記録することで、抑制性入力の多寡や強度を見積もっている。これを臨界期前後の動物で行うことで、DGL-α欠損動物において抑制性シナプスの発達が変化しているかどうかを明らかにする予定である。さらにDGL-α欠損動物に抑制性伝達物質受容体の逆作動薬を投与することで抑制性シナプス伝達を抑制し、臨界期タイミングが正常に戻るかどうかを検討している。このことで内因性カンナビノイドが抑制性神経回路の発達を介して臨界期調節にかかわるかどうかを明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)消耗品(スライドグラス)の補充に残額が不足していたため、翌年度の経費と合わせて購入することとした。 (使用計画)R2年度早々に使用済みである。このことで計画に遅れは生じていない。
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