研究課題/領域番号 |
18K06524
|
研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
齋藤 康彦 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (70290913)
|
研究分担者 |
杉村 岳俊 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (60812526)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 視線制御 / カハール間質核 / 舌下神経前位核 / NMDA受容体 / コバルト取り込み / パッチクランプ法 |
研究実績の概要 |
脳幹の舌下神経前位核(PHN)とカハール間質核(INC)はそれぞれ水平性、垂直性の視線保持に関与している。研究代表者らの昨年度の研究により、視線保持の指令を生成するのに重要な興奮性神経回路の活性化がPHNではカルシウム透過型AMPA受容体(CP-AMPA受容体)を介しているが、INCでは主にNMDA受容体を介することが示唆された。そこで、本年度は、NMDA受容体を介する電流がPHNとINCで異なるのかについて調べ、NMDA受容体の関与の違いについて検討した。生後約3週齢のラットからPHNまたはINCを含むスライス標本を作製し、それぞれのニューロンからホールセル記録を行った。記録しているニューロンにカイニン酸とNMDAを局所投与してそれぞれの電流の比からAMPA受容体に対するNMDA受容体の電流の大きさを比べたところ、INCはPHNに比べてNMDA受容体を介する電流応答が大きいことが明らかになった。この結果は、INCではNMDA受容体が興奮性神経回路の活性化に重要であることを支持するものとなった。また、CP-AMPA受容体は活性化によりコバルトを取り込む性質を利用して、CP-AMPA受容体を発現しているニューロンを形態学的に同定できるコバルト取り込み法を試み、CP-AMPA受容体を発現するニューロンの存在を検証した。その結果、PHNのみならずINCにおいてもコバルトで標識されたニューロンが観察された。これらの結果から、CP-AMPA受容体を発現するニューロンはPHNとINCのどちらにも存在するが、CP-AMPA受容体の視線保持への関与はPHNの方が強いことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はINCニューロンのNMDA受容体を介する電流応答がPHNニューロンより大きいことを明らかにした。さらに、本年度の到達目標であったコバルト取り込み法に成功し、これまで電気生理学的手法によって得られたCP-AMPA受容体を発現するニューロンの存在についてより確かなものにできた。これらの研究成果をまとめた論文を北米神経科学学会のオンライン誌(eNeuro)において発表した。なお、この論文は注目論文としてeNeuro誌のホームページにて紹介された。以上のことから、おおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の重要テーマの一つはPHNとINCとの結合関係を明らかにすることである。研究代表者らのこれまでの研究により、PHNとINCは共にアセチルコリンに応答するニューロンが存在することを明らかにした。PHNではコリン作動性入力を脳幹の脚橋被蓋核や背外側被蓋核から受けていることが知られているが、INCのコリン作動性入力の起源についてはこれまで明らかにされていない。脚橋被蓋核や背外側被蓋核からINCへの神経投射の知見がないことから、INCのコリン作動性入力の起源の一つはPHNではないかという仮説を立て、PHNからINCへのコリン作動性神経連絡の有無を調べる。具体的には、コリン作動性ニューロンがtdTomatoの蛍光を発現するトランスジェニックラット(ChAT-tdTomatoラット)を用いて、INCに逆行性トレーサーを注入し、PHNにおいて逆行標識され、且つ、tdTomatoを発現するニューロンが存在するのかを調べる。また、現在、並行して行っている研究から、PHNとINCは小脳を介して連絡していることも明らかになってきたことから、小脳を介したPHNとINC間の神経連絡についても形態学的、電気生理学的に調べ、本研究課題をさらに推進させていく計画である。
|