研究実績の概要 |
海馬スライスの神経シナプスを超解像共焦点顕微鏡で3次元像を解析することで、性ホルモンによる神経スパインの急性的non-genomicな増減の解析を行った。海馬スライスのCA1領域(空間記憶にかかわる)のグルタミン酸神経において、男性ホルモンであるテストステロン(T)ジヒドロテストステロン(DHT) と強い女性ホルモンE2の2時間短期作用を詳しく調べた。(1)過去に発見した「 T, DHTやE2が、神経スパイン内にある男性ホルモン受容体ARや女性ホルモン受容体ERに結合 → (シナプス可塑性を制御する)蛋白キナーゼであるLIMK, MAPK, PKA, PKC のリン酸化→アクチン制御蛋白(cofilinや cortactin)のリン酸化→ アクチン重合→ スパインが増加する」機構において、PI3K の関与を調べた。その結果は、E2作用では、PI3Kが関与して全スパイン密度を増加させ、特に頭部の小さいスパインを増加させた。それと異なり、T, DHT 作用では、全スパイン密度は増やさないが、頭部直径の分布を変化させるという、E2との明らかな差があることを見出した。(2)E2作用は2時間も待たずに40分で起こることを見出した。これは、E2のスライスへの浸透時間20分を考慮すると、早い作用として限度であると思われる。 (3)性ホルモンとは生理的な作用が全く異なるストレスホルモンであるコルチコステロン(CORT)も調べていて、やはり早い神経スパイン増加作用があることは以前に発見していた。今回は更に詳しく調べたところ、CORTもLIMK, MAPK, PKA, PKCなどを稼働させて、スパイン増加を引き起こすということを発見した。つまり性ホルモンとストレスホルモンに共通するnon-genomic なシナプス制御作用が存在し、両者のシナプス制御にはかなり一般的な仕組みがあることを見出した。
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