研究実績の概要 |
海馬スライスの神経シナプスを超解像共焦点顕微鏡で3次元像を解析し、性ホルモンによる神経スパインの急性的でnon-genomicな増減の解析を継続して行った。海馬CA1のpyramidal neuron に対する研究結果で、テストステロン(T)、ジヒドロテストステロン(DHT) とエストラジオール(E2) は、全て、それぞれのシナプス受容体ARやER の下流にある、蛋白キナーゼ LIMK, MAPK , PKA, PKCを活性化していることが分かった。 蛋白キナーゼをこんなに多種類に渡って活性化するのか不思議であったので、他の有名な神経伝達物質でも、蛋白キナーゼの活性化を調べた。海馬スライスの神経に、cGMP分解酵素であるPDE5の阻害剤を作用させて、cGMP濃度を上昇させる系を調べた。PDE5阻害剤を作用させると2時間でシナプスが増加した。ところがこの信号系では LIMK, MAPK , PKA, PKC が全く働いていなかった。cGMPは PKG のみを動かしていたのである。これは意外な結果だが、これによって、性ステロイドが多くの蛋白キナーゼを活性化するのは、かなり特別な仕組みであることがわかった。 海馬で神経新生が起こる歯状回(DG) granule neuronに対して、男性・女性ホルモンがシナプスを増加させるかどうかは、CA1に比べて非常に研究が少ない。DGでは ARの発現がないという抗体染色結果と mRNA 発現結果があるので、DHT の効果は無いと考えても不思議ではないが、実は DHT でgranule neuronのシナプスが増加した。これは ARが細胞体にはないが、神経シナプスには存在しているという新しい発見である。今後下流のキナーゼの関与を調べる予定だが、大変有望な研究である。
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