研究実績の概要 |
我々の研究室では、組織の低酸素化を最大限遅らせ、迅速に脊髄を取り出す独自の手法にて頸髄急性スライスを作成することで、生後3週以降の脊髄運動ニューロンからのホールセル記録を可能にしたことにより、大脳皮質錐体細胞と頸髄運動ニューロン間の直接結合の有無をシナプス形成時から継時的に確認できるのみならず、シナプスが一旦形成され除去にいたる過程のシナプス活動の変化を詳細に観察することが可能になった。 この手法を用いて電気刺激及び光遺伝学的刺激による皮質-運動ニューロン直接結合の結合頻度(陽性率)と、電気刺激による結合強度(振幅)の継時変化をグラフにまとめたところ、生後1週齢にかけて形成された直接結合は、生後2週齢にかけてプラトーに達し、以降シナプス除去が始まり、生後3週齢以降には消失することがわかり、この結果を英文誌に投稿した(Neuroscience 478: 89-99, 2021)。 このシナプス除去過程をpaired pulse 刺激実験とストロンチウムを用いたquantal studyを組み合わせて観察したところ、paired pulse 刺激による二発目の振幅の一発目の振幅に対する減少率が変化していったことからpresynapseに変化が生じていることが示唆されたが、miniture EPSCの振幅には変化が見られずpostの関与はとらえられなかった。また、 NMDA受容体サブユニットの1つであるGluN2Bを運動ニューロンから選択的にノックアウトすると、皮質脊髄路-運動ニューロン直接結合のシナプス除去が部分的に阻害されたことから、本シナプス除去過程にはGluN2Bが関与しており、遺伝的要因に加え、活動依存的な影響も受けていることが示唆された。
|