小脳がどのように認知や情動などの高次機能に関与しているかを解明するために、小脳における神経活動マーカーの探索を進めた。C57Bl6マウスにカイニン酸を腹腔内投与し痙攣を誘発させると、小脳ではc-fos、junB、Npas4などの最初期遺伝子の発現が有意に増加することを定量的real time PCRによって確認したが、その増加率は海馬に比べると1桁下回っていた。最も変化の大きかったc-fos遺伝子の発現変化を、恐怖条件付けにおいてin situ hybridizationにより定量的な解析を進めたが、小脳皮質において有意な変化は見られなかった。c-fosプロモーターによって駆動される蛍光タンパク質の発現をリードアウトとする方が有利であり、また観察のタイミングによる変化も小さいと考えられるので、Sorensen(eLIFE 2016)らが開発したRAMシステムを用いたAAVウイルスベクターを作成した。小脳初代培養系においてAAV-RAM-EGFP-hSyn-mCherryを感染させ、高濃度KCl刺激によるEGFPの発現を確認した。同ウイルスベクターを小脳へ接種し、カイニン酸による痙攣を生じさせたところ、in vivoにおいてはEGFPの発現の有意な差がコントロールとの間で見られなかった。基底状態でのEGFPの発現を抑える目的で、Tet-OFFシステムを導入した。AAV-RAM-tTA-TRE-EGFPを作成し、小脳初代培養系において実験を行ったところ、doxycycline存在下でのEGFPの発現はほとんど見られず、doxyxyclineを除いて直ちに高濃度KCl刺激を行った場合、刺激後5時間でEGFPの有意な発現が見られた。今後、in vivoにおいて、AAV-RAM-tTA-TRE-EGFPの小脳における神経活動マーカーとしての有効性を確認する。
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