研究課題/領域番号 |
18K06532
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
平井 康治 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (30648431)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大脳基底核 / 淡蒼球外節 / ラット / 電気生理学 / 聴覚 |
研究実績の概要 |
大脳基底核の淡蒼球外節における聴覚情報処理とそれに関わる神経回路の理解のために、ウレタン麻酔下のラットを用いた細胞外ユニット記録を行い、様々な周波数の音刺激への応答パターンを解析した。またcholera toxin subunit Bやadeno-associated virusなどの神経トレーサーを用いた組織化学実験で入出力に関わる脳領域の調査を行った。昨年度までに、淡蒼球外節ニューロンは尾側領域において音刺激に対して興奮性の応答を示すことを明らかにした。今年度はさらに解析を進め、以下のことを見出した:1, 高頻度の自発発火を示すニューロン(淡蒼球外節のprototypic neuron subtypeに見られる)は脳波が徐波睡眠時様(slow wave-sleep)でもレム睡眠時様(cortical activation)でも共に音刺激に対し興奮性応答を示した。一方で、自発発火が低頻度のニューロン(arkypallidal neuron subtype等で見られる)では、cortical activation時にのみ音刺激に興奮性の応答を示した。2, 興奮性応答のみでなく、音刺激に抑制性の応答を示すニューロンも見られた。さらに、興奮性応答に先んじて抑制性の応答が見られる抑制―興奮応答のニューロンも見られた。3, 逆行性の神経トレーサーを音応答が見られた部位に注入して逆行性標識が見られる脳領域を調査した結果、興奮性応答の入力元として大脳皮質側頭部(聴覚野含む)や内側膝状体の内側核といった聴覚関連領域が示された。以上の結果から、淡蒼球外節は大脳皮質または視床の聴覚領域からの興奮性入力と、線条体のGABA作動性medium spiny neuronを介する抑制性入力を同時に受けており、ニューロンタイプや脳の覚醒度に応じて異なる感覚応答を神経伝達先である大脳基底核の様々な領域に伝えていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初年度に研究代表者の健康上の問題で生じた計画の遅れを取り戻すために、今年度は電気生理実験と組織学実験を並行して行い、それぞれ一定の知見を得ることができた。しかしながらサンプル数はいまだ十分ではない。さらに新たな発見に伴い実験手技に検討を要するいくつかの問題が生じている:1, 淡蒼球外節のarkypallidal neuron subtypeはslow wave-sleep時には自発活動も音応答も見られず記録効率が悪いため、ウレタン麻酔深度を浅めにコントロールするように変更した。そうしたところ、淡蒼球外節ニューロンの神経活動が脳波パターンとの関係以上に大きく変化し、消失する場合も見られた。現在その原因と法則、関係すると思われる神経システムについて追加の解析を要している。2, 興奮性神経伝達の入力元の調査にcholera toxin subunit Bや逆行性のadeno-associated virus (retro-AAV)を用いたが、対象としている尾側領域への注入では標識が安定しない(抑制性の線条体medium spiny neuron以外で全く標識が見られない場合がある)。吻側領域での知見と比較しても上記報告の通り大脳皮質からの興奮性入力はあると考えるが、視床内側膝状体からの入力は報告されていないので、確認が必要である。準備実験では内側膝状体への順行性神経トレーサー注入によって少数だが明確なブトン用構造が見られている。retro-AAVは光遺伝学を用いたシナプス結合の確認にも必要なので、効果が安定しない原因の解明を優先して行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては、従来の神経回路スキームには含まれてこなかった特殊感覚系からの興奮性入力の存在が重要であり、その電気生理学的、組織学的知識を深めることが求められる。従って、まずはその興奮性入力の伝達元を確定させる。現時点で聴覚野を含む大脳皮質と視床の内側膝状体内側核が逆行性神経トレーサーによって明らかになっているが、「現在までの進捗状況」に記載の通り、トレーサーの信頼性に問題が見られている。現在さらに別の神経トレーサーを試すとともに、ミエリン鞘軸索が密であることが原因である可能性も考えて、少し幼若の動物の使用も調査している。逆行性標識の結果に間違いがないことが確認された後には、順行性トレーサーをそれらの領域に注入し、順行性標識された軸索のブトン構造が淡蒼球外節で確かに見られるかを観察することで確認を行う。retro-AAVが働く条件が確定すれば、Creを逆行性に投射細胞に発現させ、Cre依存的に順行性標識することでより確かに興奮性入力の有無が確かめられると考えている。これはチャネルロドプシンを用いた光遺伝学的な生理学的解析にそのまま利用できるので、可能な限り利用したい。ユニット記録で見られている神経活動のダイナミックな変化に関しては、現在までに得られている実験データを、麻酔や脳波状態との関係とともに改めて解析を行い、原因を探っている。場合によっては、影響を与える条件を固定することで、その生理条件下での音応答の解析とする必要があるかもしれない。もしくは、そのメカニズムや生理的意義の調査にまで研究計画を拡張する可能性も考える。調査項目を明確にしたうえで、足りていないサンプル数をなるべく早く補充したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に健康上の理由で研究活動が大幅に遅れたことから多額の繰越金が発生したが、今年度に遅れていた実験機器等の導入を行い、ほぼ計画通りの使用となっている。残額は次年度の試薬等消耗品と実験動物の購入費用に割り当てる。
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