大脳基底核の働きは主に運動機能や行動選択、強化学習との関係でよく調べられているが、入力核である線条体が大脳皮質視覚野や聴覚野などの感覚野からも軸索投射を受けているにも関わらず、大脳基底核における感覚情報の処理についてはまだほとんどわかっていない。本研究課題では、聴覚情報が大脳基底核の間接路の中心である淡蒼球外節においてどのように受容され、基底核の機能にどのように影響を与えるのかについて、ラットの淡蒼球外節からの細胞外ユニット記録と組織学的解析により明らかにすることを目的とした。 昨年度までに、音刺激に応答する淡蒼球外節ニューロンが尾側側頭部においてのみ存在し、その多くが従来の基底核回路スキームから想定されるものと反する興奮性に応答することを明らかにした。本年度はその興奮性応答がどのような神経投射経路においてもたらされるのかについて、組織学的に調査を行った。逆行性トレーサーのfluorogoldを尾側側頭部の淡蒼球外節に注入し、逆行標識された細胞を全脳で探索した結果、興奮性投射細胞の存在する脳部位として大脳皮質側頭部(主に島皮質、嗅周囲皮質、二次聴覚野)、視床下核、内側膝状体内側核などの非毛帯経路の視床核、などを見出した。この結果から音情報は1) 大脳皮質から視床下核へのハイパー直接路を経由して淡蒼球外節に入る、2) 二次聴覚野やより高次の連合皮質(辺縁皮質)・視床から入る、の一方または両方からもたらされることが示唆された。更に、尾側側頭部の淡蒼球外節ニューロンが黒質外側部へ軸索投射していることも逆行性トレーサー実験により確認できた。黒質外側部はドーパミン細胞を含むが、報酬刺激では無くサリエンシーを反映した活動をすることが報告されている。従って聴覚刺激に応答する淡蒼球外節ニューロンが関与する間接路は、音受容の心理的強度を符合化する回路の一部である可能性を示唆することができた。
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