研究課題
血液脳関門を欠いた感覚性脳室周囲器官(sCVOs)は、体液のNa+濃度や浸透圧のセンサーをはじめ、体液成分のモニタリングに関わる分子が特異的に発現し、生命維持に不可欠である体液恒常性維持の根幹を担っていると考えられている。最近研究代表者らは、sCVOsのグリア細胞おいて発現するNaチャンネル分子Naxが、水分摂取行動制御を担うNa+濃度センサーであることを明らかにした。さらに飲水行動全体を説明するには、Naxばかりではなく未知のNa+濃度センサーからのシグナルも必要であることが新たに判明した。本研究は、この未知のNa+濃度センサー分子の実体を明らかにすることを目的としている。平成30年度は飲水行動に関わるNa+濃度感知部位を決定するために、野生型マウスにおいてsCVOsの部位特異的破壊を行い、高浸透圧溶液を脳室内注入したときの水分摂取量を測定した。その結果、sCVOsのうち終板脈管器官(OVLT)を破壊すると、食塩水やソルビトール溶液を脳室内へ注入したときの飲水行動が、ほぼ消失することが判明した。これに対して 脳弓下器官(SFO)を破壊した場合では、飲水行動への影響が見られなかった。以上の結果は、飲水行動に関わるNa+濃度や浸透圧の感知部位がSFOであることを示している。さらにNaxノックアウトマウスのOVLTにNaxを発現するアデノウィルスを注入して部位特異的に発現を回復させると、食塩水脳室内投与時の飲水量が野生型マウスと同程度まで回復した。この結果から、NaxがOVLTにおいてNa+濃度センサーとして機能していることが判明した。現在、Na+濃度センサー候補分子とNaxシグナルとの関係を調べるために、NaxノックアウトマウスにおけるNa+濃度センサー候補分子の発現抑制実験を行っている。
3: やや遅れている
他の研究での需要もあってNaxノックアウトマウスの生産が間に合わず、Naxノックアウトマウスを使った実験に遅れがでた。現在は産仔用ペアを増やしたこともあり、必要数を確保できている。
Na+濃度上昇時の飲水行動制御の脳内機構の解明を目指し、平成31年度は以下の実験を行う。(1)Na+濃度センサー候補分子とNaxとの間の関係の解明Na+濃度センサー候補分子とNaxシグナルとの関係を調べるために、NaxノックアウトマウスにおけるNa+濃度センサー候補分子の発現抑制を行い、食塩水の脳室内投与時の飲水量を測定する。この結果をNaxノックアウトマウスやNa+濃度センサー候補分子の発現抑制を行った野生型マウスの結果と比較する。さらに、エポキシエイコサトリエン酸(EETs)の飲水量回復・増強効果に対するNa+濃度センサー候補分子の発現抑制の効果を検討する。(2)Na+濃度センサー候補分子の発現細胞の同定センサー分子による飲水行動制御機構を知るためには、センサー分子が発現している細胞種の同定が必須である。そこでNa+濃度センサー候補分子について、OVLT内のどの細胞種に発現しているかを、免疫染色や単細胞RT-PCR等を用いて明らかにする。
すべて 2019
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Neuron
巻: 101 ページ: 60-75
10.1016/j.neuron.2018.11.017