研究課題
大脳皮質-大脳基底核ループは、運動調節、認知機能、報酬といった重要な脳機能を制御している。線条体に存在するドーパミンD1受容体陽性細胞から黒質へ投射する経路(直接路)は、ループを構成する主要な神経路の一つであり、運動の開始や増強に重要な役割を果たしているが、その分子メカニズムに関しては不明な点が多い。低分子量GTP結合タンパク質 (small GTPase) が媒介するシグナル伝達系は、様々な細胞応答を制御しており、高次脳機能においても重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。本研究は、独自開発したウイルスベクター遺伝子導入技術 (ダブルAAVベクターシステム) を駆使して、直接路で特異的にsmall GTPaseシグナル伝達系の活性を操作し、直接路の機能発現におけるsmall GTPaseシグナル伝達系の役割を明らかにすることを目指す。本年度はまず、ダブルAAVベクターシステムを利用して、直接路特異的にC3、あるいはRac1のドミナントネガティブ変異体を発現誘導し、直接路においてRho GTPaseあるいはRac1 GTPaseの活性を抑制した遺伝子改変マウス (それぞれD1R-C3マウスとD1R-Rac1 DNマウス) を作製した。これらのマウスの線条体を組織学的に解析したところ、ドーパミンD1受容体陽性細胞の顕著な減少が認められた。
2: おおむね順調に進展している
ダブルAAVベクターシステムを利用して、D1R-C3マウスとD1R-Rac1 DNマウスを作製することに成功した。これらのマウスの線条体を組織学的に解析したところ、ドーパミンD1受容体陽性細胞が顕著に減少していた。このことから、ドーパミンD1受容体陽性細胞の生存には、RhoあるいはRacによって媒介されるシグナル伝達系が重要な役割を果たしていることが分かった。
ドーパミンD1受容体陽性細胞が著しく減少すると、直接路の機能発現における分子メカニズムを解析することが難しくなるので、RhoやRac以外のsmall GTPaseシグナル伝達系を検討する必要がある。最近、側坐核のドーパミンD1受容体陽性細胞におけるprotein kinase A (PKA)-Rap1 GTPaseシグナル伝達系が、報酬行動に重要な役割を果たしていることが報告された。つまり、このシグナル伝達系は、直接路が司る運動制御にも深く関与している可能性が考えられる。従って、今後はまず、ダブルAAVベクターシステムを利用して、線条体のドーパミンD1受容体陽性細胞特異的にPKAのconstitutive active変異体を発現誘導し、直接路においてPKAが特異的に活性化されたマウス (D1R-PKA CAマウス) の作製を予定している。D1R-PKA CAマウスを利用して、1)線条体の組織学的な解析、2) Open field testによる運動量の解析、3)直接路におけるPKA-small GTPaseシグナル伝達系の活性変化による大脳皮質-大脳基底核ループの機能変化に関する電気生理学的な解析、を遂行する。
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