研究課題/領域番号 |
18K06536
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
揚妻 正和 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 特任准教授 (30425607)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 二光子イメージング / population coding / 恐怖条件付け / 前頭前野 / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
大脳皮質内側前頭前野(mPFC)は「情動」の制御に重要であると考えられる。しかしながら、従来の技術的な制約もあって、特に行動中の動物から神経「集団」の活動を記録することで初めて調べられるような「神経群ネットワークとしての情報処理」に関する知見は、これまでのところ特にmPFCに関して非常に限定的である。本研究では、1) 2光子イメージングによる多数の神経活動の経時的観察、2)深部イメージング、3) それらと光遺伝学を「同時に」行うための光学系、を統合させた独自のシステムを用い、擬似自由行動中のマウスmPFCでの神経活動の「記録・操作」を進めていく。そしてそれら技術を利用して、情動記憶形成過程における脳内情報処理機構の時空間的変遷を把握し、その仕組みを理解することを目的としている。 これまでのところ、他の項目(現在までの進捗状況、今後の研究の推進方策)に記載するように、学習の前、最中、及び学習後の記憶想起中のマウスから、神経集団活動データの記録ができており、多くのデータを得た。さらに、数理学的なアプローチによりこれらの観測で得られたデータの解析を進めてきた。その結果、学習の過程や成立後における神経活動の変化など、記憶との関連が示唆されるいくつかの現象を検出している。また並行して、そこから得られた仮説を検証するために、神経活動操作技術の開発・光学系の構築も進めてきた。次年度以降の展開に向けて、計画通り順調に進んでいると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2光子神経活動イメージング技術により、多数の神経からの同時活動記録を行った。情動に関わるmPFCからのイメージングには、マイクロプリズムを利用した深部イメージング技術を用いた。正中に沿って滑り込ませることで、神経結合を切断することなく深部に到達できるため、低い侵襲性を担保することができた。遺伝子コード型センサーの導入により長期的に細胞を標識し、従来困難であった「同一の神経細胞における学習前後での神経活動パターンの比較」を実現した。実験は頭部固定中の擬似自由行動可能なマウスを用いて行い、恐怖条件付けという古典的な学習を行うマウスからの神経活動記録を進めることが出来た。 それらの技術を用いることで、学習の前、最中、及び学習後の記憶想起中のマウスから、神経集団活動データの記録ができている。すでに多くのマウスからデータが得られており、昨年度より継続してこれらのデータの解析を進めている。その成果として、情報・数理学系の専門家との共同研究を通じて、恐怖記憶と関連したアンサンブル(神経細胞集団としての活動)を検出する方法を確立した。 現在はこれら検出されたアンサンブルについてその生理的意義や発生機序を検証している。学習の過程や成立後における変化に関しての数理解析に加え、「今後の研究の推進方策」に記載するように、光遺伝学を用いて直接的に因果関係を調べる準備も進んできている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、数理解析によるイメージングデータの解読を進め、脳内情報処理機構の時空間的変遷をより詳細に迫っていく。各神経細胞の個性ごとの役割の違いの検証に加え、細胞集団としての挙動により焦点を当て進めていく。近年開発されてきた他の様々な数理解析と我々の開発した物とを比較することで、我々の新たな解析手法の優位性などを立証していく。 さらに、このようにして解析で検出したアンサンブルの意義を十分に検討した後、光遺伝学による因果関係の解明へと展開する。光学系の構築は上述の通り概ね完了しており、その調整を進めつつも、解析が終わった段階で速やかに実際の検証実験に移行する。特に、これまでに我々は興奮性細胞をイメージングし、同時に抑制精細胞の活動を光遺伝学により操作する技術を用いてきたが、一方で因果性の検証には同じ興奮性細胞の活動観察と操作を同時に実現する必要がある。この際に、我々のみならず様々な研究室がその両立、すなわちセンサータンパク質とオプシンタンパク質の共発現効率の確保を模索してきている。これに対し、我々はシステマチックに様々な組み合わせを検証することで、系を最適化していく計画である。これらを通じて、光による人工的なパターン再生を行うことで、検出された特徴的神経活動の「記憶コード」への関与を直接的に調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は数理解析に関する共同研究が非常に良く進展し、そのため当初予定していた実験中心の計画ではなく、数理解析を中心に研究を進めることになった。この変更に伴い、未使用額が生じた。令和二年度には、これらの解析結果をもとにして実験を展開することで、メカニズム解明に向けたより質の高い研究を進めていく計画である。
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