研究課題/領域番号 |
18K06537
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
木村 梨絵 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 特任助教 (60513455)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経生理 / 神経回路 / 視覚野 / 行動 / マルチユニット記録 |
研究実績の概要 |
対象物の明るさとその背景との明るさの対比であるコントラストが高い時と低い時とで、入力量が異なるのにも関わらず、同様の知覚・認知に至るには、低コントラストの時には、高コントラストの時とは異なる機能的神経回路を柔軟に駆動していることが推察される。そこで、本研究では、低コントラスト刺激の視覚弁別を可能にする神経回路の解明を目指す。 これまでに、頭部固定状態のラットに、高コントラストと低コントラストの刺激を用いて、縦縞と横縞を区別する視覚弁別誘発性の運動課題を行わせ、その課題遂行中のラットから一次視覚野の多細胞の発火活動をマルチユニット記録している。この結果、主に興奮性のWide-spiking(WS)細胞、抑制性のNarrow-spiking(NS)細胞のいずれにおいても、単一細胞レベルで、麻酔時や受動的な視覚刺激提示で観察されるようなコントラストが高い時に神経活動が強くなる細胞のみならず、コントラストが低い時に神経活動が強くなる細胞が観察されていて、さらに、この低コントラスト優位な細胞は、低コントラストの視覚弁別課題を正解する時に強く活動する傾向が観察されている。 2018年度では、細胞集団としての縦縞・横縞の情報表現に、低コントラスト優位な細胞の神経活動が、どのように寄与するかを調べるために、細胞集団の応答から、縦縞、横縞のデコーディングをして、その精度を算出した。この結果、高コントラスト優位な細胞よりも、低コントラスト優位な細胞を含めてデコーディングをすると、特に、低コントラスト刺激を提示した時に、その精度が上昇した。したがって、低コントラスト優位な細胞は、細胞集団の情報表現にも重要であることがわかった。さらに、局所電場電位(LFP)の解析を行った結果、高コントラスト刺激の提示時には、抑制性の影響力の増大が示唆され、低コントラスト優位な細胞の生成につながると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低コントラストの視覚弁別をする時の一次視覚野内の細胞集団の情報表現に、低コントラスト優位な細胞が重要であることを示すことができ、また、低コントラスト優位な細胞の生成メカニズムの一つを考えることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
低コントラスト優位な細胞の生成メカニズムの一つを、一次視覚野内において考えることに成功したが、一次視覚野外の他の脳領域による関与については、詳細に解析できていない。今後は、逆行性、順行性のトレーサーを用いることによって、解剖学的な神経結合を調べ、さらに、特定の脳領域に光活性化タンパク質を発現させることによって、光遺伝学的に回路特異的な神経活動操作を行い、因果的に多脳領域間の相互作用を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、実験よりも、実験データの解析に時間を費やした。このため、当初予定していたよりも研究経費がかからなかった。2019年度以降では、新たな実験も行う予定である。このため、実験機器を購入する必要がある。
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