対象物の明るさとその背景との明るさの対比であるコントラストが高い時と低い時とで、入力量が異なるのにも関わらず、同様の知覚・認知に至るには、低コントラストの時には、高コントラストの時とは異なる機能的神経回路を柔軟に駆動していることが推察される。そこで、本研究では、低コントラスト刺激の視覚弁別を可能にする神経回路の解明を目指した。 これまでに、学習後の低コントラストの縦縞・横縞の情報表現に、高コントラストの視覚刺激よりも低コントラストの刺激に強く応答する細胞(低コントラスト優位な細胞)が重要であることがわかった。学習後の課題遂行中には、一次視覚野においていずれのコントラストに対しても視覚誘発電位が増大して、興奮が強まった。また、低コントラスト優位な細胞は、高コントラスト優位な細胞に比べて、視覚刺激提示前のベースレベルの神経活動や最適コントラストの視覚応答は大きく、興奮性の上昇が示唆された。さらに、高コントラスト刺激でベータ(18-30 Hz)帯域のオシレーションが強く生じた。この帯域の位相にロックして発火活動が生じ、特に抑制性神経細胞は、興奮性細胞に比べて、より位相がそろった神経活動を示した。この結果は、高コントラスト刺激で抑制が強まることを示唆する。このような興奮と抑制のバランスによって、高コントラストでは細胞が興奮しすぎることはなく、低コントラストでは細胞が十分に活動することができて、強い応答が誘導されたと考えられた。令和3年度には、新たに重回帰分析を行い、視覚応答は、提示している視覚刺激のコントラストに強く依存していて、その他のレバーの動きとか、直前の試行の報酬の有無とかには影響されないことがわかった。この視覚応答のコントラスト依存性は、経時的にも安定していて頑強性を示した。この研究成果は、論文投稿し、リバイスの解析を加えて、令和3年度に出版することができた。
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