研究実績の概要 |
令和3年度では、STK25が脳形成時においてReelinシグナルと拮抗的に機能する事に着目し、研究を進めてきた。海馬のPyramidal neuronで見出していたように、Stk25をノックダウン(KD)やコンディショナルノックアウト(cKO)すると大脳皮質の移動中のneuronにゴルジ体断片化を引き起こし、約50%のneuronが移動障害を示した。しかし、cKOマウスでも最終的にゴルジ体構造や皮質構造は正常であることから、ゴルジ体の断片化、神経細胞移動の回復には代償機構が働いている事が予想された。そこでSTK25と同じキナーゼグループに属し、相同性が非常に高いMST3, 4が候補に考えられた。MST4は脳で発現が見られないが、MST3はSTK25と同様の発現を示し、かつ先行研究からMST3のKDでゴルジ体の断片化、神経細胞移動障害がみられる事が分かった。そこで、アクチン骨格制御で重要な役割を果たすRho-GTPaseとの関係をしらべたところ、STK25,MST3ともRac1と強く相互作用し、ARHGEF6,7との相互作用を介してRac1の活性化を制御する事が分かった。加えて、両分子ともCul3-Bacurd1複合体との相互作用を介したRhoAの積極的分解に関与することも分かった。本研究で見出した結果は、Reelinシグナルと拮抗的に機能するSTK25がMST3とのGenetic Compensationによって大脳皮質形成に重要な役割を果たしている事を示すことが出来た。本研究から得られた知見から、これらのGenetic Compensationがゴルジ体の構造制御機能にも働いている事が予想されるとともに、Reelinシグナルとのクロストークにより高次脳機能へのゴルジ体ダイナミクスの関与を明らかにできると確信している。
|