研究課題
本研究では、高度に酸化された天然資源分子への自在な官能基の導入・置換反応の開発を目指します。特に、C-O/C-N 結合切断型変換反応の開発と活用に焦点を絞り、1) これまでにない天然資源分子をテンプレートとする機能性分子の創製と 2) 生体内活性物質/機能性分子の直接的な変換・修飾に挑みます。詳細を以下に示します。1) C-N、C-O 切断型クロスカップリング反応を用いた重縮合反応。本研究では、アリールハライド(Ar-I, Br, Cl)を求電子剤として用いる従来型の方法に代わり、ニッケル触媒存在下、フェノール類(Ar-OH)やアニリン類(Ar-NH2)に由来するアリールエーテル(Ar-OR)とアンモニウム塩(Ar-NMe3+)を用いるクロスカップリング反応を開発してきました。今回、この反応を OLED や有機電界トランジスタなどの光学材料素子として重要なπ共役ポリマーの合成に展開しました。本反応は、高分子の新たな精密合成法を拓く重要な知見であり、さらなる展開が期待されます。2) アニリンからアリールエーテルへの変換反応。アミノ基は天然物をはじめとして様々な機能性分子にあまねく存在する官能基です。そのため、アミノ基を簡便に他の官能基に変換する方法を確立することができれば、新たな有用化合物の探索がより容易になると考えられます。本研究では、遷移金属触媒を用いない条件下で、カリウムアルコキシド(ROK)が速やかにアリールアンモニウム塩の炭素-窒素結合を炭素-酸素結合に組み替える反応を進行させることを見出しました。本手法はグラムスケールでの運用も可能であり、複雑な構造を有する医薬品あるいはその誘導体の合成にも非常に有用なプロセスです。
1: 当初の計画以上に進展している
2018 年度は 新規 C-O/C-N 結合切断型変換反応の開発とその応用に集中します。その為に、昨年度は 1) C-N、C-O 切断型クロスカップリング反応を用いた重縮合反応や 2) アニリンからアリールエーテルへの変換反応などを達成し、Nature Commun. や Angew. Chem. Int. Ed. などを含む重要国際学術誌に7報の論文を発表しました。昨年度の計画に基づいて、現在までの研究は予想以上に順調に進展しています。
2019 年度の研究は、昨年度に引き続き C-O/C-N 結合切断型変換反応の開発を継続する予定で、新手法及び新規反応機構の導入を一層重視することにします。特に、従来の遷移金属触媒反応の問題点の克服を志向し、可視光などの外部刺激に基づくクリーンなエネルギー利用を基盤とし、合成の最終段階での使用にも耐えうる高選択反応を生み出すことで、天然物や医薬品など多官能基化された分子の合成・誘導体化のための新たな合成手法を確立することを目標とします。
2018 年度は、本課題における重要な進展とする「C-N、C-O 切断型クロスカップリング反応を用いた重縮合反応」および「アニリンからアリールエーテルへの変換反応」の開発に成功しました。これらの研究を遂行するために、当年度の研究費は予定通りに使用されました。また、当研究室の別予算により本研究における費用(消耗品など)の一部が支払われたこともあります。未使用金額(15,022 円)は、2019 年度の物品費(実験器具や他の消耗品)に繰越します。
すべて 2018 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 7件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Nature Commun.
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