研究課題/領域番号 |
18K06544
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
王 超 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (90610436)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 不活性結合切断反応 / 天然資源分子 / 光化学反応 / 機能性分子創製 / 合成終盤的誘導体化 / タンパク質の標識 / DNA コード化ライブラリー |
研究実績の概要 |
本研究では、天然物、医薬品や機能性分子に多く見られる高度に酸化された C-O/C-N 結合を切断しつつ自在に官能基を導入する手法の確立を目指します。本年度は、1)「光エネルギー」を活用して、電子励起状態の積極利用による分子変換反応を開発し、2) 生体内活性物質、医薬品や機能性分子などの効率的で直接的な変換・修飾を実現しました。詳細を以下に示します。
1) 可視光下での C(sp3)-N 結合の切断による立体選択的なアルケンの官能基化反応。本研究では、アミンから容易に調製可能なアルキルピリジニウム塩(Katritzky 塩)を用い、可視光による C(sp3)-N 結合切断を基盤とするアルケンのラジカル型官能基化(Heck 型)反応を初めて実現しました。本反応は高い化学選択性を有し、様々な官能基が含まれる基質が利用可能です。さらに本反応では、触媒の選択により立体選択性の能動的制御が可能です。また、ラジカル捕捉反応や光による異性化反応などの検証実験を行い、本反応の反応機構や特異な立体選択性も明らかにしました。
2) アニリンのC-N 結合切断を介する誘導体化反応。本研究では、アンモニアカチオンとカウンターアニオンの間の非共有結合性相互作用を反応駆動力とする反応設計を行うことで、アニリンから簡便かつ定量的に調製できるアリールアンモニア塩の C-N 結合の効率的な官能基化反応を実現しました。本反応では、遷移金属触媒を使用しなくて、室温下で水溶液中でもアンモニウム塩の C-N 結合を様々な炭素-ヘテロ元素結合に組み替えることが可能です。本手法は、機能性材料・医薬品など多官能基化された分子の創製および合成終盤的誘導体化に適用可能であり、タンパク質の標識やDNA コード化ライブラリーなどの生命システムの化学過程の理解と解明にも応用可能です。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019 年度は 新規 C-N 結合切断型変換反応の開発とその応用に集中します。その為に、昨年度は、1) 可視光下での C(sp3)&-N 結合の切断による立体選択的なアルケンの官能基化反応と 2) アニリンの C-N 結合切断を介する誘導体化反応などを達成しました。これらの結果の一部は、ISHC-27 などの国際会議で発表され、Chem. Eur. J. や iScience などの重要国際学術誌にも掲載されました(4 報)。昨年度の計画に基づいて、現在までの研究は予想以上に順調に進展しています。
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今後の研究の推進方策 |
2020 年度の研究は、2018 と 2019 年度に引き続き C-O/C-N 結合切断型変換反応の開発を継続する予定で、「物理エネルギー」を新たな反応駆動力とする新規分子変換反応の開発を一層重視することにします。合成の最終段階での使用にも耐えうる高選択反応を生み出すことで、天然物や医薬品など多官能基化された分子の合成・誘導体化のための新たな合成手法を確立することを目標とします。さらに、可視光などの外部刺激の利活用を基盤とする革新的元素化学や機能性分子創製にも着目し、研究を展開します。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019 年度の本課題における重要な進展とする「可視光下での C(sp3)&-N 結合の切断による立体選択的なアルケンの官能基化反応」および「アニリンの C-N 結合切断を介する誘導体化反応」の開発に成功しました。これらの研究を遂行するために、2019 年度の研究費は予定通りに使用されました。また、当研究室の別予算により本研究における費用(消耗品など)の一部が支払われたこともあります。未使用金額(211,920 円)は、2020 年度の物品費(実験器具や他の消耗品)に繰越します。
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